勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(267)

8月26日 2つの大記録と甲子園の「大事件」

1500奪三振をマークした阪急・山田久志投手(右)と850盗塁の福本豊外野手
1500奪三振をマークした阪急・山田久志投手(右)と850盗塁の福本豊外野手

■勇者の物語(266)

昭和56年8月26日、西武―阪急後期7回戦(西武)で大きな記録が2つ生まれた。

◇8月26日 西武球場

阪急 112 000 012=7

西武 000 000 001=1

(勝)山田9勝10敗5S 〔敗〕東尾6勝9敗

(本)大田⑱(山田)

ひとつは山田の1500奪三振。「あと1」に迫っていた山田は一回、先頭の山崎を2―0と追い込み内角へストレート。クルリとバットが回ってあっさり達成。そしてもう一つが福本の通算850盗塁。九回先頭で四球で出塁。二盗、三盗を決め、こちらもあっさり達成だ。

この年、福本は開幕から絶不調が続いた。打率が2割を切ったときもあった。ある日の朝、福本は午前4時に家族を起こし『いまから釣りに行くぞ!』と出かけた。もちろん試合のある日である。

「スカッとした気持ちになりたかった。みんなビックリしとったけど、誰も文句は言わんかった。ありがたいわ」

いい話である。だが、翌日の1面を飾ったのは、甲子園球場で起きた〝大事件〟だった。

虎番2年目の筆者はその日、甲子園球場にいた。ナイターとはいえ、うだるような暑さ。ヤクルト19回戦は七回を終わって4―1と阪神が3点のリード。だが、八回にそれまで踏ん張っていた先発の江本が崩れた。一死から大杉の左前安打と杉浦の一塁線への強烈な二塁打で二、三塁のピンチを招き、続く渡辺に右前適時打されて1点を返された。ナインがマウンドに集まった。

投球数も140球を超え、江本もしきりにマウンドを蹴ってベンチに〝代えてくれ〟とアピール。だが阪神ベンチは動かない。渡辺の代走の羅本に二盗を許して二、三塁。八重樫を三振に抑えて2死としたが、続く水谷に右前へ痛恨の同点2点タイムリー。156球の熱投が水の泡と消えた。憤然とした表情でベンチに引き揚げてきた江本は、持っていたグラブをベンチに向けて投げつけた。

「あの怒りようなら、すぐにベンチから出てくるかもしれん。龍一、ちょっと様子を見てきてくれ」

キャップの指令ですぐにベンチ裏へと向かった。そしてプロ野球史に残る〝大事件〟に遭遇したのである。(敬称略)

■勇者の物語(268)