“完全に新しいOS”として発表された「Windows 11」と、見えてきたマイクロソフトの思惑

「すでに速くて頑丈なクルマ」としてのOS

昔は必ずしもそうではなかった。1990年にリリースされた「Windows 3.0」は、その複雑さを理解するために時間と手間をかけられる、まさに趣味人向けのOSだった。当時の多くのテック製品と同じくWindows 3.0には奇抜さがあったが、30年の時を経てOSの主要な問題はほぼすべて解決され、(理論上は)最初からしっかり機能するようになったのだ。

ここで「iPhone」または「Android」のスマートフォンを使う体験と、Windows 3.0を使う体験とを比較してみよう。「Windows 95」は、PCをオタクがマニュアルを読んで使うものから、一般ユーザーが最初からうまく使いこなせるような製品へと変えた。「それは単なる商品なのです」と、ミラーは言う。「消費者はそれについて何かを考えたりはしません」

マイクロソフトがこの6年間は完全な新OSをリリースせず、あまり目立たないかたちでおおよそ6カ月ごとに段階的なアップデートを続けてきたのも、まさにそれが理由だろう。Windows 7以来、OSのアップデートはショーウィンドウの飾り付けや銀を磨くことと同じようなものになっている。

「『ほら、これが新バージョンのWindowsですよ!』と言えるような新機能は、それほどたくさん出てきません」と、「Windows Report」のティアシナは指摘する。「すでに速くて頑丈なクルマに、それ以上なにができるでしょうか? クルマを飛行機に変形させることはできませんよね」

マイクロソフトの真の狙い

当然ながら、ことはそれよりも複雑である。「段階的なOSのアップグレードでは毎回のコードが数百万行にもなり、事後にさまざまな欠陥が見つかるものです」と、Rosenblatt Securitiesのシニアリサーチアナリストのジョン・マクピークは語る。

マイクロソフトが世界中のメディアを集めてWindows 11のリリースを発表した正当な理由について、マクピークは思い当たる節があるという。それはマイクロソフトが、アップルの独自チップ「M1」の成功に対抗しようとしているというものだ。

M1チップは性能が向上したのみならず、バッテリーのもちがよくなっている。ところが、軽量でバッテリー消費の少ないコンピューティングを実現すべくマイクロソフトが計画していたOS「Windows 10X」は、このほど開発が中止された。マイクロソフトがWindows 10Xに採用予定だった機能を、より幅広いユーザー層に届ける必要があると判断したことが理由とされる。

リークされたバージョンのWindows 11から判断すると、レイアウトも含めWindows 10Xに採用予定だった機能の一部が引き継がれているようだ。これはつまり、マイクロソフトがある時点で、Windows 10の“アップデート版”としてリリースしようとしていたものを、「11」に名を変えてリリースすべきだと判断したことを示唆している。

「マイクロソフトは新しい重要な問題を解決しようとするとき、Windowsの新バージョンをリリースする傾向にあります」と、IDCでリサーチ部門のバイスプレジデントを務めるリン・ファンは指摘する。

Windows 10は、モバイルファーストの世界におけるサイバーセキュリティ問題を解決しようとした。そしてWindows 11は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を通じて浮かび上がってきた「マイクロソフトにとってWindows 10の定期アップデートでは手に負えず緊急性の高いテック関連の問題」に対応するためのものだと、ファンは考えている。

今回のパンデミックは、モバイルとPCの市場を急速に変えた。IDCがまとめたデータによると、21年の最初の3カ月における世界的なPCの出荷台数は、前年比で55%増加したという。

将来は「Windows 12」が登場する?

今回のWindows 11の発表は、アップルのM1チップへの対抗のほかに、アップルがマイクロソフトの市場シェアを着実に奪っていることへの対応でもある。「マイクロソフトが新たな名称でいこうと決めたのは、やや売上が落ちていることが理由だと考えています」と、「Windows Report」のティアシナは語る。

今年初め、「Chromebook」と「Mac」のシェアが増加した影響で、ノートPCにおけるWindowsの市場シェアは史上初めて80%を下回った。「マイクロソフトは、子どもたちがWindowsを使う世界を用意しようとしているのです」と、ティアシナは言う。

その一環として、パンデミック後のハイブリッドな仕事環境で人々が使いたくなるような輝かしい新製品として、Windows 11をブランディングしているのだ。たとえ現実がそうでなかったとしてもである。実際のところ、4人に1人はWindows 11にアップグレードするつもりがないという。

Windows 10がWindowsの“最終バージョン”だったとしよう。Windows 11が発表されたということは、今後「Windows 12」が登場する可能性が高いということなのだろうか?

「Windows 11は一過性のブランドということになるでしょうね」と、ミラーは言う。「いまから5~10年後には、別の新チームがまた新たなブランディングに取り組むことになるでしょう」

だが、いつかわたしたちがWindows 12を使うことになる日が来ることがほぼ避けられないからといって、そうすべきということにはならない。「どれだけアップグレードできるのかという点においては、ほぼ限界を迎えています」と、ティアシナは指摘する。

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