「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

短期集中連載『闘将が虎を抱きしめた夜』第1話「願ってもない人」

星野仙一さんと筆者
星野仙一さんと筆者

監督就任後、3年連続の最下位。沙知代夫人に迫る脱税容疑での逮捕の情報…。それでも野村克也監督の続投を1ミリも動かさない阪神球団の姿勢は、明快な打開策を持ち合わせていない台所事情の裏返しでもあっただろう。

ポスト野村監督は…

いちるの望みは野村沙知代夫人が逮捕されないこと…だが、とても希望的な観測は抱けなかった。オーナー宅を訪れる3連休前、東京に出張した。目的は沙知代夫人に対する東京国税局や特捜部の動きを調べることだ。すでに東京国税局は野村監督の監督報酬や夫婦の講演料、沙知代夫人のタレントとしてのギャラなどを管理するコンサルタント会社などを査察。沙知代夫人本人を呼んで事情聴取することも秒読み状態だった。

産経新聞の東京本社で沙知代夫人の問題を追いかけていた社会部の部長に会った。「どうですか?」。誠実さが漂う社会部長は顔を少しだけしかめてこう答えていた。

「まず逮捕までは行くだろう。なにしろ、サッチーに対しては以前(96年)、衆議院選に立候補したとき、公選法違反(虚偽事項の公表)の罪で東京地検に告発されたことがある。結果的には地検は『嫌疑不十分で』不起訴にした。その時の特捜部の幹部が、今度の約2億円の脱税、約5億円の所得隠しの疑惑を担当しているんだ。〝今度こそは捕まえる〟って…相当に意気込んでいる。腕をまくっているよ」

結局、沙知代夫人は12月5日、約5億6800万円の所得を隠し、法人税と所得税あわせて2億1300万円を脱税したとして、法人税法違反(脱税)などの疑いで東京地検特捜部に逮捕された。と同時に、野村克也監督は甲子園球場内にあった球団事務所で引責辞任を発表している。事実上の解任だった。

ただ、それは9月23日の日曜日の昼下がりの時点では〝未来の話〟である。緊迫する情報戦の中で、うっすらと、しかし確実に忍び寄る危機として捉えることはできたが、「逮捕に至らない」可能性が0%か…と聞かれれば、誰も答えられなかっただろう。そんな状況でも、久万オーナーとの会話は「野村解任後の監督問題」に移っていた。

「野村さんが辞めざるを得ないとなったら、後任監督はどうします?」

「野崎君(球団社長)は『仰木さんを…』と推しています。もう本人と会ったのかもしれない」

「では、野村さんが辞めたら仰木新監督ですか。近鉄やオリックスの監督として実績十分の名将ですね」

「私は嫌です。ウチはオリックスの失業対策のためにあるのではない」

「それならば、他に候補といえば、岡田彰布2軍監督ですね」

「少し早い。彼はまだ43歳でしょう。早すぎる」

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