新聞に喝!

紙面を「散歩」する面白さ 美術家・森村泰昌

「新聞の良いところは、政治も経済も海外の話題も事件も広告も、すべて一つのパッケージの形で収まっていることですね」。これは産経6月10日夕刊(大阪本社発行)の特集「学ぼう産経新聞」(東京本社版朝刊では同19日)にあった小説家、恩田陸氏の言葉である。恩田氏はこうした新聞の利点を、小説家らしく、自由に閲覧可能な「開架式図書館」に例えておられたが、私ならさしずめ新聞とは「日々の散歩」のようであると言ってみたい。

散歩は明確な目的地ありきの移動ではない。なんとなくうろついているうちに、知らない景色やお店や思わぬ事件に出くわす面白さがある。そんな朝夕の散歩に、日々届けられる朝刊と夕刊を重ね合わせてみたくなったのだ。最近出会った本紙記事を二、三挙げてみる。

まずは同24日「正論」欄で日本大教授、先崎彰容(あきなか)氏が論じた「M・ウェーバーの警句と令和日本」。戦後日本の「常識」だった欧米型の「自由と民主主義」が揺らぎ、「統制国家・中国」と中国を理想の国家像として憧れる小国群は、束になって国際秩序の変更を迫っているという。これまでは疑うべくもなかった価値観が激変していくことのリアリティーを改めて考えた。同様の硬派な記事として、東京大名誉教授、佐藤直樹氏の「『科学』の視点から」の「コロナ禍『全てに疑いの眼を』」(同28日)もあった。日々飛び交うコロナウイルスにまつわる有象無象の科学的知見といかに向き合うべきかが、「全てを疑え」との警句とともに提案されている。

新聞がカバーするのは硬派な内容だけではない。例えば「お好み焼き前線北上中」(同26日夕刊)という、庶民生活にまつわる記事も面白い。お好み焼きソースのメーカーによる、お好み焼きに適した「キャベツの切り方」動画が人気を呼んでいるという。コロナの影響で自炊が増え、愛知以北でも自宅でお好み焼きを作る機会が増えたらしい。私が関西人だからかもしれないが、この記事には思わず立ち止まってしまった。

恩田氏が言うように、「ネットの情報は、過去の検索履歴などをもとに関心のあるものが送られてくることも多い」が、新聞の紙面には逆にさまざまな情報が基本、等価に散在している。硬軟取り交ぜていかに新聞紙上を散歩するかは読者次第なのである。新聞の面白さや利点はまだまだ掘り起こせる。紙媒体が好きな私は特にそう思う。

【プロフィル】森村泰昌

もりむら・やすまさ 昭和26年、大阪市生まれ。京都市立芸大専攻科修了。ゴッホなど名画や歴史的な人物に擬した写真作品を発表。著書に「自画像のゆくえ」など。

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