ある地方都市で先日、徳川慶喜の話をする機会がありました。コロナ禍下、聴衆の皆さんを前におしゃべりするのは本当に久しぶりでした。そして、この講演の準備を進めていくなかで、慶喜についていくつかの「発見」と感慨を抱くことがありました。
たとえば慶喜は一言で表現すれば、「好奇心のかたまりだった」ということに思い至りました。面白いものは面白いし、便利なものは便利だ。因習にとらわれず、そうしたものを適宜、取り入れよう─の精神です。その延長線上に、彼の開国論があり、欧米諸国の議会制度などへの関心があったのだと、今回、認識を改めた次第です。
いま私は、そんな慶喜にぜひとも聞いてみたいことがあります。明治・大正期を生き、異例に属した長寿の晩年にあった「その後の慶喜」時代の彼に、「自分の若かりしころ─前半生をどのように振り返ったのか」と問いかけたいのです。