主張

土石流被害 盛り土の安全対策を急げ

静岡県熱海市で起きた大規模土石流は、上流部の盛り土が崩壊して被害を拡大させた可能性が高くなっている。これを受けて国土交通省は、全国の盛り土を総点検する方針を打ち出した。

大雨などに伴う土石流被害が想定される地域は全国各地に点在しているのが現状だ。政府や自治体は、危険箇所の洗い出しを早急に進めてもらいたい。

熱海市の土石流現場周辺は、9年前に静岡県が「土砂災害警戒区域」に指定していた。これは土砂災害防止法に基づき、土石流や崖崩れなどの危険がある場所を都道府県が指定する制度だ。今年3月時点で、全国で約66万カ所が指定を受けている。

傷痕が生々しい現場は海岸近くまで山が迫り、谷に沿って斜面に住宅や宿泊施設、保養所などが建設され、開発が進んできた。こうした光景は、平地が少ない日本全国の至るところで見られる。

山の斜面などに住宅や道路を建設する際に土を盛って平らな土地を造成する盛り土は、大雨や地震で崩れる恐れもある。とくに住宅地に近い場所では、排水や締め固めの状況などについて入念に点検する必要がある。

国交省が取りまとめている大規模な盛り土による造成地は全国で約5万1千カ所を数えるが、宅地以外での山林での造成などは他省庁に管轄が分かれている。縦割りの谷間に陥ることなく、環境省や農林水産省などの関係省庁と緊密に連携して点検してほしい。

宅地造成や道路建設などに伴う盛り土は、法律にもとづいて安全規制が講じられている。だが熱海市の崩落現場の盛り土は宅地ではなかったため、安全規制の対象に含まれていなかったという。

今後は、宅地以外の盛り土についても一定の安全規制を検討すべきだろう。

土砂災害警戒区域と市街地が重なる地点も多い。そうした場所では防災上の観点から、新たな不動産開発を規制するなど、具体的な対策を検討すべきである。

自然災害の激甚化に伴い、全国の土砂災害は増加傾向にある。

最近5年間の発生件数は1千件を超える水準で推移しており、昨年は1319件の土砂災害が発生した。ハザードマップを使って各自が自分の暮らす地域の特性や災害の危険性を把握しておくことも重要である。

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