一筆多論

黒海で「航行の自由」作戦 岡部伸

ロシアが不法占拠しているウクライナ南部クリミア半島沖の黒海での航行をめぐり、英国とロシアが鋭く対立している。

露国防省は6月23日、クリミア半島沖を航行していた英海軍駆逐艦に対し、警告目的で威嚇射撃と爆撃を行ったと発表した。

露外務省は英国の駐露大使を呼び、「次回は軍艦を爆撃する」と軍事的な対抗措置も示した。2014年にクリミア半島を武力で一方的に併合して実効支配するロシアは現場海域を自国領海としている。だが、この海域は国際的にロシア領海と認められていない。

これに対し、強く反発しているのが英国だ。翌24日、ジョンソン首相の「われわれ(民主主義国)はロシアの違法なクリミア併合を一切認めない」との発言は正鵠(せいこく)を射ている。

英国はウクライナ領内を航行していた事実を認めたが、砲撃は事前に伝えられていたロシアの訓練で爆撃も受けていないとし、「海域はウクライナ主権の領海で、通行は全面的に正当な行為だ」と反論した。駆逐艦の航行は国連海洋法条約に基づく無害通航であるとも主張した。

これに先立つ5月22日、駆逐艦は英空母「クイーンエリザベス」など9隻の打撃群の一隻として英ポーツマス港を出港した後、途中で離脱し、オランダのフリゲート艦と6月中旬に黒海を航行中だった。

ウクライナ国境に部隊を集結させるロシアを牽制(けんせい)して、黒海で北大西洋条約機構(NATO)とウクライナによる合同演習に参加するためだった。

駆逐艦には英BBC放送などの記者が乗船し、米偵察機も支援していた。このことから、英軍は、公海上で軍艦を航行させる「航行の自由」作戦を黒海で実行し、公表するつもりだったと解釈できる。

こうした英国の動きに対し、プーチン露大統領は30日、「英米による軍事的挑発だ。ロシアは英駆逐艦を撃沈することもできた」と反発しているが、日本にとっても人ごとではない。

旧ソ連はさきの大戦の終戦日である昭和20年8月15日の後、一度も外国領になったことのない北方四島に侵攻し、75年以上不法占拠を続けているからだ。

クリミア半島も北方四島も歴史の正義に背くロシアによる国家犯罪だ。法の支配を無視し、力による現状変更で既成事実とする行動原理は変わらない。

そうした中での空母打撃群の出港である。フォークランド紛争以来、最大規模となる長期海外派遣だ。極東に展開することで、「40カ国と交流し、民主主義、法の支配など国際秩序に対する脅威に立ち向かう」(ジョンソン首相)のが狙いだ。

打撃群はインド、シンガポールを経て8月ごろ、中国が人工島の軍事拠点化を進める南シナ海を通過予定で、米国同様「航行の自由」作戦を実施する。

この後、尖閣諸島周辺海域の東シナ海を通過し、韓国・釜山港寄港後、日本海を北上して津軽海峡から目的地の横須賀港に向かう。

東シナ海や日本海でも中露の一方的な海洋主権の主張に毅然(きぜん)と立ち向かう「航行の自由」作戦を行うことも検討している。

「中国に、英国が国際海事法を信じることを示す」

空母打撃群出港の際、ジョンソン首相は、中国を名指しし、海洋秩序を守る気概を示したことを明記しておきたい。(論説委員)

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