ビブリオエッセー

絶品!おいしい日本語 「『丸かじり』シリーズ」東海林さだお(朝日新聞出版、文春文庫)

「食」をめぐるコトバが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している。テレビ番組の影響か、誰もが一様にしたり顔で「まったりしている」「香りが立っている」とか「あのシェフ、仕事してないね」など、まことにかまびすしい。

だが、お待ちいただきたい。かかる混迷にあって食を語らせたら天下一品、古今無双の絶対王者が東海林さだおさんだ。なかでもこの「丸かじり」シリーズ。

週刊誌に延々と連載が続き、単行本は1988年の『タコの丸かじり』から最新刊『パンダの丸かじり』は第43巻。揺るがぬ人気の超スーパーエッセーなのだ。私は全巻所有のヘビーユーザーである。

例えば手元の『サンマの丸かじり』を開いてみよう。食事の音に着目した「禁ゴクゴク飲みの時代」では食のグローバル化にともなう蕎麦のズルズル問題に始まり、ビールのゴクゴク飲みとマナーについて考察している。また、卵かけご飯の流行の次は醬油かけご飯で決まりだと果敢に世に問い、「ガムの切り上げどき」では嚙んでいるガムをどの時点で諦めて捨てるかという悩ましい問題に取り組んだ。

独特のこだわり感あふれる描写がユーモラスで本質を突き、時に鋭い。圧倒的な語彙力、そして擬態語や擬人化の妙。「昭和軽薄体」と呼ばれるその語り口は東海林さんが大好きな落語家、古今亭志ん生の名調子を感じさせる。しかも大谷選手ではないがエッセーと漫画の二刀流だから魅力はメジャー級である。

基本は白いご飯。どんなオカズにも合う文体なのだ。つまり東海林さんの文章とは私たちの舌に安心の口福をもたらすご飯のような、実に「おいしい日本語」なんですネ。ここまで聞けば、さあ、皆さんもこの丸かじりシリーズを、ぜひ召し上がってください。

兵庫県宝塚市 前田俊也(62)

投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556―8661 産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。