熱海の土石流 迫る「72時間」、夫の生還待つ妻

土砂崩れ現場で捜索する自衛隊員=5日午後、静岡県熱海市伊豆山(萩原悠久人)
土砂崩れ現場で捜索する自衛隊員=5日午後、静岡県熱海市伊豆山(萩原悠久人)

大規模な土石流に襲われ、多数の安否不明者が出ている静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)地区は5日で発生から3日目を迎え、被災者の生存率が急激に下がるとされる「72時間」の6日午前が迫る。雨は小康状態となった一方で、夏の暑さが戻り、現場では懸命な捜索活動が続けられた。夫の生還を信じて待つ妻は、被害の甚大さを前に言葉を失った。

この日は朝から時折、晴れ間ものぞくなど、天候は回復。その分気温が上がり、警察や消防、自衛隊の関係者にとっては、蒸し暑さの中での作業となった。安否不明者の安全確保のために重機は使えず、スコップなどの手作業で泥をはき出す姿がみられた。

その傍らで、地区内に自宅がある小川慶子さん(70)は、2人で暮らす夫、徹さん(71)の行方を案じていた。

慶子さんは知り合いの葬儀のため、土石流発生前日の2日に沖縄県へ。翌3日午前11時ごろ、徹さんに電話してもつながらず、通信アプリのLINE(ライン)でメッセージを送っても既読にならない。

気をもんでいたとき、テレビで目にしたのは、茶色い濁流に襲われた地元の惨状だった。

急いで飛行機のチケットを取り、帰路についたが、土石流の影響による交通規制などで、3日は神奈川県小田原市内で足止めを食らった。4日に東京都と千葉県に住む娘2人の家族も合流し、現場周辺までたどり着いたが、泥に阻まれ、自宅に近づけなかった。

5日、熱海市側の対応で規制区域内に自宅のある人は中に入れてもらえるようになり、数十メートル離れた地点から、自宅が残っていることは確認できた。ただ、家屋や木々がなぎ倒され、地肌がはっきりと露出した土石流の爪痕を目の当たりにし、衝撃を受けた。夫の安否に余計不安が募った。

かつて町内会長を務めていた徹さん。人柄が良く、町内会の事務作業などを引き受けては、自宅でパソコンを操作する様子をよく見かけた。慶子さんは「皆さんからの信望が厚い人だと思う」と、最愛の人への思いを明かす。

土石流の発生から3日が過ぎようとしている。災害救助で生死を分けるとされる「72時間」が刻一刻と近づく。「厳しいかもしれないが、見つかることだけを願っている」。慶子さんは寄り添う娘たちの前で、うつむきながらもそう言い切った。