【本ナビ】クリエイティブディレクター 佐藤可士和 奇蹟の力引き出す鍵『ほんものの魔法使』 - 産経ニュース

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クリエイティブディレクター 佐藤可士和 奇蹟の力引き出す鍵『ほんものの魔法使』

「ほんものの魔法使」
「ほんものの魔法使」

『ほんものの魔法使』ポール・ギャリコ著、矢川澄子訳(創元推理文庫・968円)


米国の作家、ポール・ギャリコが1966年に刊行したファンタジイの名作。日本語の訳書はしばらく絶版になっていたが、今春、宝塚歌劇での舞台化を機に復刊したところ、人気沸騰で発売前から重版が決定したという。

魔術師、奇術師が住まう都市マジェイアに、ある日、ふしぎな青年アダムが、ものいう犬モプシーを連れてやってくる。魔術師名匠組合への加入を希望し、はるか山の向こうから旅してきたというアダムは、マジェイア市長で組合の統領でもあるロベールの娘、ジェインを助手として加入審査に臨む。そこで彼が披露したのは種も仕掛けもない「ほんものの魔法」だった。

自分たちの奇術や手品の価値が損なわれることを恐れ、街に高い城壁をはりめぐらせて秘密の防衛に努めてきたマジェイアの魔術師たちは、アダムの魔法を目の当たりにして、彼を亡き者にしようとする。けれども、アダムはその無垢(むく)な心ゆえにすぐれた超能力に恵まれ、心から仲間を求めて街にやってきたのだ。アダムとモプシーの運命は…?

人間の弱さ、煽(あお)られた群衆心理の恐ろしさ、対するアダムの対応や、予期せず愚行に加担してしまった後の和らぐことのない心の痛みには、胸が苦しくなった。しかしジェインが、アダムから教えてもらった魔法の箱の蓋(ふた)を開けてアダムとモプシーに再び巡り合うラストは、あたたかい希望の光に満たされた。「何もかもこの中につまっているんだよ。(中略)人間のいままで成しとげたことは、すべてこの奇蹟(きせき)の箱から生まれたものだ。これさえ上手に使いこなせれば、きみは、いままで誰にも思いつかなかったことや成しとげられなかったことをやってのける。星へ行く道だって見つけられる」

眠れる力をどう引き出すか。「きみだけがその鍵をにぎってるんだ」。アダムの言葉に、僕自身もとても大きな気づきをもらった。アダムと出会えて幸せだと思った。


『キリギリスのしあわせ』トーン・テレヘン著、長山さき訳(新潮社・1430円)

太陽と月、星以外は何でも売る店を営むキリギリス。店は大人気で、毎日開店前から動物たちの行列ができる。どんな無理難題にも「あるよ」。ありのままを肯定し、しあわせについて考えさせてくれる、大人のための上質なファンタジイ。

さとう・かしわ 昭和40年、東京生まれ。多摩美大卒。クリエイティブスタジオ「SAMURAI」を主宰し、企業のブランド戦略やデザインなどを手掛ける。