近ごろ都に流行るもの

「家庭映像が消滅の危機」8ミリやビデオ 今こそデジタル化を

昭和46年の結婚式を映した8ミリフィルムの1コマ。デジタル化でよみがえった(安江泰二さん・冬実さん提供)
昭和46年の結婚式を映した8ミリフィルムの1コマ。デジタル化でよみがえった(安江泰二さん・冬実さん提供)

「何が映ってるんだろ?」。大片付け中に、不意に現れる8ミリフィルムやビデオテープ。ぜひ、保存・継承を考えてほしい。誰でも動画が撮れる今と違い、映像に込められた記録は濃密だ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)では、2025年ころには磁気テープの再生装置が消滅する可能性を指摘し、早急なデジタルデータ化の必要性について注意喚起している。放置されがちなプライベート映像だが、公的価値のあるものも多いという。修復・デジタル化を手掛ける東京光音では、この1年で個人からの依頼が約3倍に伸びている。

横浜市の安江冬実さん(44)は、母親(73)が衣装ケースの中から見つけた8ミリフィルムの扱いを相談された。「おじさんが結婚式を撮っていてくれたことを思い出したけど、映写機もないし、捨てようかな」。冬実さんの夫、泰二さん(27)は映像の仕事に携わっていることもあり、「どうにかして見せてあげたい」。ネットで東京光音を探した。

デジタル化でよみがえった映像は昭和46年。予想通り両親の結婚式だった。

「初めて見る動く父母の若い姿が新鮮でかわいい。小さい時に亡くなって記憶にない、おじいちゃんもいる。昔のものを今に繋ぐことの大切さに胸が熱くなりました」と冬実さん。両親も照れながら涙を流した。

泰二さんは語る。「現代はスマホ一つで動画が撮れる。だからこそ、高価で時間の制約もある8ミリフィルムは、撮った人のシーンの選び、工夫、丁寧さが感じられて温かい」。ラストシーンで驚いたのは、JR新横浜駅前の結婚式場から新婚旅行に送り出される車の背景だ。平地が広がり、送電線らしき鉄塔がそびえるのみ。「今の発展からは想像できない」。娘夫婦は目を丸くした。街の記録としての面白さもある。

縮んで劣化した直径18センチの8ミリ4巻。「こんなに大きなフィルムが、小さなSDカードになって戻ってきた。安心しました」

森政弘さん(94)はリモート取材の画面で笑顔を見せた。昨年、住み慣れた自宅を売却して老人ホームに入居する際、「これだけは持っていきたい」と、修復・デジタル化を依頼した。

大切な8ミリフィルムをデジタル化した森政弘さん(重松明子撮影)
大切な8ミリフィルムをデジタル化した森政弘さん(重松明子撮影)

ロボット研究の先駆者として知られる森さん。「論文だけでは不足。動きを見せなければ」と、映像制作技術を身に着けていた。

1964年に初渡米。東大生産技術研究所で人の指の動きを再現する「機械の三本指」の開発に成功し、スタンフォード大で研究発表する際、「ついでに撮影した」映像だ。妻と娘を伴い、東海岸からカリフォルニア州の同大を目指して、11日間5505キロを走破した「米大陸横断ドライブ」だ。平原の田舎町、雪の山脈、奇岩の大渓谷…。道路に群れ出る羊など牧歌的な米国の深部が映し出され、自身のナレーションや地図による説明、BGMにも遊び心が光る。当時小学2年、今は還暦を過ぎた娘にSDカードのコピーを渡すと大喜び。世紀を越えた贈り物になった。

 高速道路に侵入する羊の大群。1964年に撮影した「米大陸横断ドライブ」から(森政弘さん提供)
高速道路に侵入する羊の大群。1964年に撮影した「米大陸横断ドライブ」から(森政弘さん提供)

東京・初台にある東京光音のデジタル修復・復元センターを訪ねた。フィルムの洗浄、1コマごとのスキャン、色やキズの修復…。緻密な手作業が進められている。「昔は読み取れなかった文字などもデジタル化で判別できるようになり、歴史的発見が生まれることもある」と松信秀明所長(54)。テレビ局や博物館などの依頼を中心に受けてきたが、「昔の街並みや途絶えた祭礼など、個人の映像にも貴重なものが映っている。消えてしまう前になんとかしなければ」。

昨夏、一般客向けにホームページを刷新し、アーカイブの基礎知識情報を発信。その結果、1年弱で80件以上の個人映像が持ち込まれた。「大半が劣化で他社に断られたケース」。価格は状態や尺で幅が大きく、見積もりが必要だ。

普及したビデオデッキも5年前に生産終了。動くうちなら、自分でDVD化などもできる。今やれることを、やるべし。(重松明子)