「将棋界最強」とうたわれる渡辺明三冠(37)=名人・棋王・王将=が3日の第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局で藤井聡太棋聖(18)=王位=に敗れ、タイトル戦で初めてストレート負けを喫した。
渡辺三冠は今期の棋聖戦が39回目のタイトル戦。過去38回のうち、敗退は9回だが、平成15年のタイトル初挑戦となった第51期王座戦からストレート負けが一度もない強さを誇っていた。
開幕2連敗で後がなくなった第2局。翌6月19日朝、対局場となった兵庫県洲本市のホテルニューアワジが用意したマイクロバスの中から、渡辺三冠は笑顔でホテル関係者らに手を振り、徳島阿波おどり空港に向かった。バスには帰京組ら5人が乗り込んだが、お互いに離れて座り、誰一人として声を発しない。
「また新しい負かされ方…」。空港に到着後、搭乗を待つ渡辺三冠が数分間の沈黙の末、重い口を開いた。渡辺三冠がいう「新しい負け方」とは、「持ち時間」のことだ。
渡辺三冠が形勢やや良しだった72手目の段階で、残り時間は藤井棋聖の5分に対し、渡辺三冠は38分。「持ち時間と局面のバランスから、『5分対38分』で負けるケースはほとんどない。かなり珍しい」
渡辺三冠は午後に入り、自陣の玉を固めて相手に時間を使ってもらう作戦に出た。「どこかで相手が間違えて泥仕合になっていくことはよくある。しかし、こちらだけ微妙に少しずつ間違えていって、時間もなくなっていった」