三菱電機が鉄道車両向け空調機器で架空のデータを用いる不正な検査を行っていた問題は、同社の企業統治改革が進んでいない実態をあぶり出した。同社では過去にも検査の不正や漏れが相次ぎ、インフラを取り扱う企業として、安心・安全を軽視する姿勢が問題視されてきた。今年2月に創業100周年を迎えた名門の企業体質が厳しく問われている。
三菱電機株は30日、前日比1・25%安の1612・5円で取引を終えた。長年にわたり不正検査が野放しになっていたことが伝わり、取引開始直後から売り込まれた。6月29日の株主総会で、この件について何も説明がなかったこともあり、多くの投資家が不信感を募らせたようだ。
同社はこの十数年来、不祥事が絶えない。品質に関わる話では、新幹線車両にも使われるゴム製品や半導体製品の不正検査などが発覚した。
早稲田大大学院の長内厚教授は「自社製品の品質は高いという自信があるからこそ、心に『隙』が生じたのかもしれない」と語る。
三菱電機が積極的に情報を開示しない姿勢も問題となっている。長内氏は「小出し小出しに情報を出していけば、不信感を招く。三菱グループ全体にもマイナス影響を与えかねない」と指摘した。
同社では、品質に直接関係のない分野でも不祥事が立て続けに起きている。平成24年には、防衛・宇宙関連の契約をめぐる過大請求問題で、防衛省から指名停止処分を受けた。安全保障を担う企業としての資質が問われる事態となった。長時間労働の是正やパワハラ防止など、労務面の改善も課題だ。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事は30日の会見で「会社の文化の問題は従業員の問題ではなく、経営の責任だ」と述べ、企業統治や法令順守に対する経営の責任の重さを指摘した。
「風土改革の徹底的推進」「品質管理体制の強化」-。三菱電機の株主総会招集通知には再発防止を誓う文言が並ぶ。しかし、総会当日の夜のうちに、新たな不正検査が発覚し、信頼が根底から揺らぐ事態となっている。(米沢文)