失われた言論の自由 相次ぐ自主規制…香港国安法1年

6月24日、香港の新聞スタンドで、最後の発行となる蘋果日報を買おうと列をなす市民ら(共同)
6月24日、香港の新聞スタンドで、最後の発行となる蘋果日報を買おうと列をなす市民ら(共同)

【台北=矢板明夫】香港国家安全維持法(国安法)が施行され、中国の体制に対する言論や活動への締め付けが本格化してから30日で1年。中国への批判的論調で知られる香港紙、蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)が24日付を最後に休刊に追い込まれたことで、香港のメディアや言論人の間に自主規制の動きが広がっている。中国共産党創建100年の7月1日を前に、香港から言論の自由が失われている。

民主派寄りとされるインターネットメディア「立場(たちば)新聞」が27日に記事の大量削除を発表したのに続き、ネットメディア「852郵報」が28日、これまでにアップした記事や映像を全て削除すると発表。29日夕の時点で、記事が閲覧できない状態になっている。

編集責任者の游清源(ゆう・せいげん)氏は声明で蘋果日報の休刊や国安法違反容疑での幹部逮捕に触れ、「今の政治的雰囲気はとても厳しい。これからの香港を守るため、生き残ることが必要だ」と記事削除の理由を説明した。

852郵報は2013年に設立されたメディアで、名前は国際電話の香港のエリア番号852に由来。これまでに香港の地域ニュースや映像を中心に配信し、政治的立場は民主派に近いといわれるが、蘋果日報や立場新聞と比べて温和的と評されていた。

自由な言論を求めて香港からの「脱出」を宣言するメディアも出てきた。ネットメディアの「Winandmac」は28日、「言論の自由がすでになくなった香港から自らの安全のために脱出する」との声明を発表。香港でのメディア登録を抹消して海外に拠点を移すという。同メディアは科学技術分野のニュースを多く配信し、政治的話題に踏み込む報道は少なった。

また、今月12日に出所した民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)氏のフェイスブック(FB)が29日までに閉鎖されたことが確認された。獄中からも知人を通じて更新していた周氏がFBを通じた発信をやめたのは当局や家族の圧力が原因との見方もある。

著名な歌手で政治評論家でもある杜汶澤(とうぶんたく)(とう・ぶんたく=チャプマン・トウ)氏も29日、インターネットからこれまでに発表した政治に関する論評や映像を全て削除した。