蘋果休刊に寄せて

80年代の韓国と重なる中国の言論弾圧 韓国・ソウル新聞 任炳先(イム・ビョンソン)論説委員

ソウル新聞・任炳先(イム・ビョンソン)論説委員
ソウル新聞・任炳先(イム・ビョンソン)論説委員

1980年代までの軍事政権下で厳しい言論統制を経験した韓国の全国紙、ソウル新聞の任炳先(イム・ビョンソン)論説委員に、蘋果日報(アップルデイリー)休刊について話を聞いた。

◇ 

私が高校生だった1980年、地元の韓国南西部・光州で、軍部が民主化を求める市民多数を殺害、弾圧した「光州事件」が起きたことを鮮明に覚えている。中国政府が香港で言論弾圧を強める姿は、韓国の当時の状況に重なってみえる。

全斗煥(チョン・ドゥファン)政権は80年代、各地域の新聞社の統廃合を進め、報道機関の掌握に乗り出した。体制に批判的な記者を大量に解雇させる一方、ソウル市内の一等地に「記者村」と呼ばれる専用のマンションを建て、低価格で入居できるよう便宜を図るなど、「アメ」と「ムチ」を使い分けて報道統制を強めた。ソウル新聞本社がある同市中心部の「韓国プレスセンタービル」も当時建てられたもので、政府による言論弾圧の象徴的な存在だった。

こうした統制を脱し、韓国メディアが報道の自由を一定程度取り戻すまでに、10年以上の歳月を要した。それでも、現在では当時の状況について詳しく検証が行われ、不当な言論弾圧は必ず代償を支払うときが来ることを示した。

香港でも、蘋果日報に最後まで残った職員らが、創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏が拘束される以前から現在の事態を想定して将来の検証に向けた準備を進めてきたと話している。韓国の経験から、香港が言論の自由を取り戻すのは可能だと私は信じる。

光州以外の人間が惨状を知り得なかったかつての韓国とは違い、現在の香港の状況については全世界が注目している。一定の時間はかかるだろうが、事態が改善されるのはそれほど先のことではないだろう。われわれにできることは多くないとしても、香港への連帯の意思を中国政府に絶えず示し続け、香港の人々の犠牲を少しでも軽減できればと考えている。(聞き手 時吉達也)