【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(258)】王と長嶋 引退→助監督もうひとつのON物語 - 産経ニュース

メインコンテンツ

勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(258)

王と長嶋 引退→助監督もうひとつのON物語

会見ではつとめて淡々と語ったが、さみしさはかくしきれず、目頭がうるむ巨人・王貞治内野手(手前)と藤田元司監督=1980年(昭和55年)11月4日、東京グランドホテル
会見ではつとめて淡々と語ったが、さみしさはかくしきれず、目頭がうるむ巨人・王貞治内野手(手前)と藤田元司監督=1980年(昭和55年)11月4日、東京グランドホテル

巨人の〝電撃発表〟が続いた。11月4日、王貞治が22年間の現役生活にピリオド。「助監督」就任が発表された。東京・芝の東京グランドホテルで記者会見が行われた。

「王貞治としてのバッティングができなくなりました。技術的、体力的なこともあります。ホームランをボクなりに打てなくなったのが最大の理由です」

シーズン終了後、王はずっと「来年も現役を続ける」といい続けてきた。それが突然の引退―助監督就任。多くの人が〝疑惑の目〟を向けた。それは、王も長嶋解任に加担していたのでは―という疑惑。あれだけお互いを認め合ってきたONなのに、結局は藤田監督就任も数年後の〝王体制〟の布石だったか…と。だが、真実はまったく違っていた。

9月のある日、王は長嶋監督に「力の限界」を告げた。長嶋も「まだやれるよ」とは言わない。王が悩み苦しんでいる姿を見てきたし、心を決めて「引退」を告げに来たことを理解していたからだ。「わかった。ここまでご苦労さんでした」。2人は話し合い、シーズンが終わった翌日の10月21日に発表することを決めた。だが、そうはいかなくなった。

10月4日の広島遠征で王は長嶋監督から「オレは監督を辞めさせられる」と打ち明けられた。「そんなバカな!」。王は目を真っ赤にして怒った。そして解任が現実のものになり始めたとき王は「オレも一緒に辞める」と訴えた。すると今度は長嶋が止めた。

「ダメだよ。ワンちゃんは残らないと。いま、巨人からON2人が一度に消えたらどうなる。チームのために現役を続けてくれ」

正力オーナーをはじめとする球団首脳たちも必死になって王を説得した。清水先輩はいう。

「王さんは律義な人だから、そんな状況で、それでも辞める―とはいえなかった。テレビのインタビューを受けたときも、自分の気持ちとは逆に〝来年もやりますよ〟と言い続けた。だから、助監督に就任すればチームに残り、長嶋さんとの約束も果たせる。これ以上、自分に噓をつく必要もない―と、引退を発表したんだ」

王と長嶋―もうひとつの「ON物語」である。(敬称略)