感染免疫学者の藤田紘一郎さんの研究室には、ホルマリン漬けされたサナダムシが入った瓶が並んでいた。取材に訪れた記者は、いずれもかつて藤田さんの体の中にいたものだと説明されて、肝をつぶしたものだ。
▼藤田さんは、長さが10メートル近くにもなるサナダムシを平成8年から15年近く、自分の腸で「飼育」していた。歴代の6匹には、「サトミ」「ヒロミ」などと名前まで付けていた。といっても、ペットにしていたわけではない。寄生虫が花粉症などのアレルギー疾患を抑える効果を実証するためだった。
▼寄生虫は人類にとって敵のはずだ。その効用に目を向けるようになったきっかけは、日本企業の駐在員の健康を調査するため派遣されたインドネシアでの経験である。衛生状態がよくない現地の住民に、アレルギーがほとんどないことに気づいた。おなかのなかには寄生虫をもっていた。