「ネイバーフッドシティ」の条件と都市計画のゆくえ

アソシエーションとコミュニティでは人々は異なる結びつき方をしているので、どちらもつくっておかないとこぼれ落ちる人が出てきてしまうのですが、自著のなかでは、平成期を通じてアソシエーションが育ち過ぎ、逆に町内会のような既存のコミュニティが弱くなってしまった、という整理をしています。

ただ楽観的に言うと、この先「同じ土地で再生エネルギーなどを一緒につくって分けましょう」というような、何らかの共有財産を管理する組織が新たに立ち上がって、コミュニティとして育つという可能性はあると思います。基本的に、土地で結びついたコミュニティなるものが、なるべく多く生まれて、日本中を埋め尽くしてほしいなと思っています。

結局、なぜコミュニティが大事かというと、当たり前ですが「アソシエーション」は目的外のことはしないからです。例えば、「アフリカの子どもたちを助けよう」というアソシエーションでは、アフリカに住む子どもたちを助けることはできても、自分の家の隣に住んでいるアフリカ系の家庭で飢えている子どもにはたどり着かない可能性があります。でも、コミュニティというつながりでは「隣のあの人が困ってるな」と気づくことはできますよね。

同じ土地に住んでる人に対する「隣人愛」って、「ちゃんとご飯食べてる?」ってくらいのちょっとした愛だと思います。でも、「隣人愛がそこにあるから近隣という単位が成立する」と考えるとわかりやすいですよね。

いま、世界の都市で行なわれている「ネイバーフッド」を起点にした都市政策の本質はおそらくそこにあって、「ネイバーフッドシティ」の目指すべき本質は隣人愛なのではないでしょうか。近隣のある一定の範囲を「自分の範囲」だと決めて、その中で助けるし助けられる。それができる都市をつくっていきましょう、ということなのではないかと思います。

饗庭 伸|SHIN AIBA

1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(工学)。同大学助手などを経て、現在は東京都立大学都市環境学部都市政策科学科教授。専門は都市計画・まちづくり。主な著書に『都市をたたむ』『平成都市計画史:転換期の30年間が残したもの・受け継ぐもの』〈ともに花伝社〉、『津波のあいだ、生きられた村』〈共著・鹿島出版会〉など。

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