「ネイバーフッドシティ」の条件と都市計画のゆくえ


「20 minute Neighborhood」を掲げるポートランドやメルボルン、車移動不要で街のあらゆる機能にアクセス可能な「15分都市」を目指すパリ── 。世界で示される徒歩圏内を再編する新たな都市像は日本に代入可能なのか? 都市計画家の饗庭伸が語る、日本で実装可能な「ネイバーフッドシティ」の姿(雑誌『WIRED』日本版Vol.41より転載)。

PHOTOGRAPHS BY CHRISTOFFER RUDQUIST

TEXT BY MANAMI MATSUNAGA

日本の都市は痩せやすい?

東京のような大都市をイメージして話をしていきますが、まず日本の都市の大きな特徴を挙げると、かなり高密度で、公共交通が高度に発達しているという点があります。この特徴がある都市は、ダイエットに例えると「痩せやすい身体」なのです。

すでに日本の都市計画として法制度も整い、近年大きな流れができている戦略が「コンパクトシティ」ですが、これはダイエットと同じで「太った都市」の脂肪を落として、拡がった市街地をギュッとスリムにすることで、二度と太らない身体(=都市)にしましょうという話です。そのためにまず市街地を縮小すると同時に、公共交通を鍛える必要があります。

「都市が太った原因」は自家用車の発達にあるので、クルマに乗らなくて済むようにみんなで公共交通を使って動く癖をつけましょう、ということです。でも、少なくとも東京は公共交通が発達しているので結構スリム。つまり、この点で言えばパリの「15分都市」のような徒歩圏内の暮らしをつくる都市モデルを持ち込んだとしても、東京にはすでに同様の健康さはあるんです。

では、何が不足しているかというと、民間の手によって、民間の建物を徒歩圏内に必要な機能に「変化させていく」ことだと思います。行政主導で新たに公共施設をつくるのではなく、既存の建物を利用して、民間によって図書館や福祉施設などがつくられていけばよいのではないでしょうか。つまり、建物が高密度にある都市に「暮らしを支えるために必要な機能を徒歩圏内に揃える」という戦略を取り入れ、すでにある建物の部分部分を必要なものに変換していけば「15分都市」はできるということです。

でも、その「必要な機能のセット」をつくったうえで、いま徒歩圏内にあるものを見たときに「うちの近所にあるの、ほぼ住宅なんだけど」っていう人は多そうですよね。それを使うしかないんです。人口減少に伴って時間が経てば空き家は必ず増えてきます。なので、ゆっくりとした動きかもしれませんが、そこに必要な機能をスムーズに埋め込んでいく。そうやって徒歩圏内に必要な機能を揃えることは、日本でも簡単に実現できるだろうと思います。

日本の都市は合意形成に時間がかかるので、政府が新しく公共施設をつくるには、5年や10年、20年といった時間がかかります。しかし、空き家を使えば圧倒的に早く、楽に進めることができます。ぼくが最初に空き家を活用したまちづくりプロジェクトに取り組んだときに徹底したのは、基本的に「市役所を絶対に巻き込まない」ことや「ご近所に挨拶はするけど意見は聞き過ぎない」といったことです。

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