【ビブリオエッセー】古生物学者の果てなき旅 「フタバスズキリュウ もうひとつの物語」佐藤たまき(ブックマン社) - 産経ニュース

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ビブリオエッセー

古生物学者の果てなき旅 「フタバスズキリュウ もうひとつの物語」佐藤たまき(ブックマン社)

私がこの本を知ったのは、好きな動物画家のかわさきしゅんいちさんが表紙や解説の絵を担当されていたことがきっかけだった。

フタバスズキリュウは白亜紀の有名な首長竜だ。1968年、福島県いわき市内の地層から1人の高校生によってその化石が発見された。では「もうひとつの物語」とは何か。読み進めるうちにわかった。「フタバスズキリュウ」と名づけられた化石の発見が第一の物語で、時を経て新たな研究の物語へと移るのだ。

少女時代に恐竜図鑑を見て夢を膨らませた佐藤さんは古生物学を志し、研究対象を首長竜に決め、海外留学で経験を積んだ。その後、フタバスズキリュウの標本に再会し、研究にのめりこむ。発見時はブームを巻き起こした首長竜だったが研究は途絶えていたのだ。そして佐藤さんは新属新種の「フタバサウルス・スズキイ」として学名登録し、名づけ親となった。

標本を調査し新種と判定するのは簡単なことではなく、先人の残した膨大なデータと向き合い、地道な研究なしにはありえない。新種の根拠を示すため近縁種の多くの化石を観察して比較することと、発見された地層の情報を読み解くことが不可欠だ。これも膨大なデータとの格闘だが、「サンプルを測定機に放り込んでボタンを押せば年代が出る、という性質のデータではない」という。苦労がしのばれる。

佐藤さんはこの本で「異なる分野の有名無名の研究者が長い時間をかけて築き上げた学術情報の蓄積という恩恵に与(あずか)っている」と書いていた。これまで読んできた自然科学の本でもよく見かけた言葉だが、私も一人の理系学生として基礎研究の大切さに思いを馳せずにはいられない。なにより佐藤さんのパワフルな研究者生活の話に引き込まれ、しばし時を忘れた。

大阪府高槻市 関珠海(20)