香港の民主化活動家、羅冠聡氏インタビュー詳報

ロンドン市内でインタビューを受ける羅冠聡氏(板東和正撮影)
ロンドン市内でインタビューを受ける羅冠聡氏(板東和正撮影)

香港民主化運動のリーダーの一人、羅冠聡(ネイサン・ロー)氏が亡命先のロンドンで産経新聞の取材に応じた。主な一問一答は次の通り。

――渡英から約1年がたった。今の生活は

「私は(英政府が1997年の香港返還前に生まれた香港市民に発行する)英国海外市民(BNO)旅券を持っておらず、市民権獲得への道がなかった。当初、観光ビザで滞在しており、どれぐらい英国にいられるか分からなかったが、亡命が認められたことで英国に安定して滞在できるようになり、心から安堵(あんど)した。休日は公園でサッカーをしたり、友達と会ったりしている」

――英国ではどのような活動をしてきたか

「欧州で香港問題について情報を発信してきた。今年3月には、香港から海外に逃れた他の民主化活動家とともに中国共産党政権による香港の民主派抑圧の停止を求める『2021香港憲章』を発表した。(香港の)民主化運動の歴史を残すため、私たちの信念と要求が記された文書を残しておきたかった」

――香港国家安全維持法(国安法)の施行からまもなく1年がたつ

「国安法により香港の自由は急速に失われ、高度な自治を保障した一国二制度は消失した。私たちの自由が恐ろしく制限されている。中国政府が公共の秩序を守るという名目で、市民の言論や集会の自由を制限していることは明白だ」

「多くの市民は国安法の標的にされる可能性があるため、政府の方針に反対することを恐れている。この状況は今後も続くとみられ、香港の将来は厳しいものになると思う」

--蘋果日報(アップルデイリー)が発行停止を余儀なくされた

「報道の自由に対する忌まわしい攻撃で、蘋果日報は民主化運動を支持しているため中国共産党に殺された。蘋果日報の社屋の外で新聞への支持を誓う支持者たちの姿を映した映像を見た。胸が張り裂けそうな悲痛な光景だった」

「国安法施行後、中国政府は香港の自治を破壊し続けている。5月には香港立法会(議会)が反中国的な候補者の立候補阻止を狙った選挙制度見直し条例案を可決した。国安法に基づく新たな映画の検閲基準も導入された」

--ともに雨傘運動を率いた民主化活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏が(無許可集会扇動の罪で)実刑判決を受けて服役し、今月12日に出所した

「(服役に)非常に怒りを感じ、がっかりした。(中国政府は)民主化運動で影響力を持つ人物を恐れており、周氏は長年標的にされてきた」

「今は休息をとって元気になってほしい。周氏は不屈の精神を持った活動家だ。この経験を乗り越え、さらに強くなると信じる」

--周氏とは連絡をとっているか

「彼女を危険にさらすため、直接連絡を取れない。香港を離れてから、彼女に連絡しなくなった。彼女の状況は友人から間接的に聞いている」

--周氏は今後どうなるだろうか

「はっきりとは分からない。ただ、周氏はパスポートを没収されているため、出国できない。香港の司法当局は香港政府による(民主化運動の)迫害に協力しており、香港政府は(国安法違反などの罪で)証拠なしに誰でも起訴できる」

--周氏とともに活動していた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は拘束されたままだ

「黄氏は間違いなく中国政府の最大の標的だ。彼は香港の民主化運動において最も重要な人物の1人だ。政府は彼の影響力や市民を団結させる能力を恐れており、できるだけ長く刑務所に閉じ込めたいと思っていることは明らかだ」

--将来、香港に戻る可能性はあるか

「数十年後かもしれないが、香港に戻れることを願っている。私たちが民主主義のために戦い続ければ、状況は変わるかもしれない」

「近い将来、香港がより良い状態になるのは難しいと思う。しかし、香港の人々はこれからも抵抗し続けると信じている」

--今月中旬の先進7カ国首脳会議(G7サミット)では中国に対し、新疆(しんきょう)ウイグル自治区での「人権や基本的自由」や、香港の「自由と高度な自治」を尊重するよう要求した

「G7サミットの首脳声明は中国を最大の脅威とみなし、中国の問題を最優先にしたと思う。民主主義国家は連携し、ウイグル自治区や香港で人権や自治権を攻撃する中国共産党と闘う必要がある。(声明でウイグルや香港の問題が盛り込まれたことは)世界が人権侵害などの責任を中国に問うための良い兆候だ」

--中国の対応に関しては米欧間でまだ温度差がある

「米欧の(中国の対応をめぐる)温度差は徐々になくなりつつあると思う。一方で、欧州諸国に『中国への厳しい対応を控えるべきだ』とする声がまだあるのも事実だ」

「欧州で香港の問題を訴え、欧州諸国が一貫して中国共産党に強い姿勢を示すように変化させることが私の責任だ」

--首脳声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性」も明記された

「中国は台湾に対する軍事的圧力を続けるだろう。中国の軍事的圧力を先制して阻止することは重要だ」

--2022年の北京冬季五輪を「ボイコットすべきだ」との主張もある

「民主主義国家は北京五輪に代表選手を送るべきではない。開催国を変更する可能性も探るべきだ」(ロンドン 板東和正)

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