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ライター、永青文庫副館長 橋本麻里 人類の根源的営みに迫る『膠を旅する』

『膠を旅する』内田あぐり監修(国書刊行会)
『膠を旅する』内田あぐり監修(国書刊行会)

『膠を旅する』内田あぐり監修(国書刊行会・4180円)


短冊状、あるいは棒状に形を整え、透き通った鼈甲(べっこう)色を呈する薄片。同じ色を湛(たた)えながら、それが何に由来するかを示唆するように、生き物の形を残したままの乾皮。かすかに漂う有機物の匂い。この6月20日まで武蔵野美術大学美術館で開催されていた、「膠(にかわ)を旅する 表現をつなぐ文化の源流」展の一幕だ。

膠は、動物や魚の皮、骨、内臓を原材料とするコラーゲンから抽出されたゼラチン質を主成分とする。一般にも身近なところでは、煮こごり料理も膠の一種。食用のみならず医療用、工業用と、その用途は幅広く、利用の歴史も古い。中国では紀元前4000年頃、エジプトでは紀元前3000年頃から、多様な用途の接着剤として用いられ、日本へは7~8世紀頃にもたらされた。何より現在では、日本画の絵の具(顔料)を基底材(和紙、絹布など)に定着させるための接着剤として、不可欠な材料となっている。

だが他のあらゆる伝統的な技術と同様、この膠の製造も危機にひんしていることから、武蔵野美術大学教授(現在は名誉教授)で日本画家でもある内田あぐり氏を中心に、画家や研究者たちの取り組んだ共同研究の成果が、まず本の形にまとめられ、さらに実物の展示へと繫(つな)がった。

生物資源の利用は、人類の根源的な営みだが、現代では他者の命をもらい受ける「現場」に触れる機会は少ない。北方先住民族の生活文化から始まった調査は、日本語の語源とされる膠=煮皮の語の通り、原材料となる牛、豚の解体、皮革産業やそこに従事する人々の歴史と文化、そして日本画の来し方行く末まで、広く、深く、目を配る。お堅い論文というより、優れたドキュメンタリーやルポルタージュのように膠へと迫る、得がたい一冊だ。


『完本 仏像のひみつ』山本勉著、川口澄子イラスト(朝日出版社・2090円)

『完本 仏像のひみつ』山本勉著、川口澄子イラスト(朝日出版社)
『完本 仏像のひみつ』山本勉著、川口澄子イラスト(朝日出版社)

東京国立博物館での展示をもとにまとめられ、好評を博した既刊『仏像のひみつ』、続刊『続仏像のひみつ』に大幅加筆の上、完全版として刊行。羅列された名称をしゃにむに覚えるのではなく、未熟であっても「研究者と同じ視点」で仏像を見る(結果的に本質的な理解につながる)ための方法を教えてくれる。

橋本麻里さん
橋本麻里さん

はしもと・まり 神奈川県生まれ。新聞、雑誌への寄稿の他、NHKの美術番組を中心に日本美術を楽しく、わかりやすく解説。