中国共産党の専横を真っ向から批判してきた唯一の香港紙、蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)が、とうとう休刊に追い込まれた。一党独裁の専制主義国家にあって、ぶれない言論活動を続けることがいかに困難なことか。体制に屈しない覚悟のありようを、まざまざと見た思いがする。
▼翻って日本社会はどうか。「60年安保」(昭和35年)の翌年に京大に入学した社会学者の竹内洋(よう)さんは著書『革新幻想の戦後史』で、当時のキャンパスの様子を振り返る。「(革新文化に)いくらかでも異論を唱えればバカ者扱い」「大学においては、左翼が体制で保守派こそが反体制ではないか」
▼抄子の大学時代はその二十数年後だが、まだそんな空気の名残はあった。そして記者となりマスコミの片隅で暮らすようになると、同業者たちの大半が革新文化を引きずっていた。新人の頃、靖国神社に肯定的な記事を書くと、他紙の先輩から「バカ」と面罵された。