【装丁入魂】美の巨匠たちのダメな話 「こじらせ美術館」 ナカムラクニオさん - 産経ニュース

メインコンテンツ

装丁入魂

美の巨匠たちのダメな話 「こじらせ美術館」 ナカムラクニオさん

ナカムラクニオ著『こじらせ美術館』(ホーム社発行、集英社発売)
ナカムラクニオ著『こじらせ美術館』(ホーム社発行、集英社発売)

表紙中央に描かれるのは19~20世紀のノルウェーの画家、ムンクの代表作「叫び」。あれ、よく見るとちょっと違う…。イラストを手掛けたのは、東京・荻窪のブックカフェ「6次元」を主宰する著者、ナカムラクニオさん自身だ。

「あの絵はムンクが『叫んでいる人』を描いたのではなく、『叫び』に耳を塞(ふさ)ぐムンク自身が描かれている。(表紙に)ムンク自体が主人公となるような絵を描くことで、画家その人にスポットを当てている感じを出したかった」

本書では、歴史的画家らの理想的とはいえない逸話を紹介。生涯独身だったのに子供が14人いたといわれるクリムトに、彼女が代わるたびに画風も変わったピカソ…。<もし美男子のムンクが、幸せな家庭に恵まれたままだったら、この名画は生まれなかっただろう>。健康に不安を抱えたムンクは、家族にも不幸が続いた。むしろ、家庭に問題のあった芸術家の方が多い印象さえ受ける。巨匠たちに共通するのは、自意識や人間関係を「こじらせ」ていた点だという。

デザイナーの望月昭秀さんらが手掛けた表紙デザインは美術館を連想させる。ナカムラさんが描いたゴッホの「星月夜」とクリムトの「生命の樹」も表紙には飾られ、作中の随所にもイラストがちりばめられている。描くうえで心がけたのは、「きれいになりすぎないこと」。例えばゴッホの場合、きれいに描くと「ゴッホ感」が出ないし、ムンクの絵からは「叫び」が伝わってこない。ムンクの絵は10回以上描き直した。

「美術の本は洗練された、おしゃれな本が多いと思います。ただ、それではきれいすぎて、画家の人生や人間臭さが見えてこない。泥臭い感じや悩んだ感じをわざと出しました」

昔から、歴史に名を刻んだ画家の「ダメ人間」ぶりに興味があったという。

「日本の美術教育はどちらかというと『お勉強』。難しく感じて美術離れした人も多いと思います。けれど、教科書に載るような人のダメなエピソードには興味を引かれるし、人生の『こじらせ』をさらけ出した作品は今も多くの人の心を打つ。『こじらせ』は創作のエネルギーなんです」

読み終えた後、美の巨匠たちがなぜか身近に思えてくる一冊。美術鑑賞をもっとカジュアルに楽しむためのお供にも。