コロナ直言(11)

有事法制で病床確保せよ 大阪府知事・吉村洋文氏

「コロナ非常事態に備え有事法制の整備を」と語る大阪府の吉村洋文知事=大阪市中央区の大阪府庁(彦野公太朗撮影)
「コロナ非常事態に備え有事法制の整備を」と語る大阪府の吉村洋文知事=大阪市中央区の大阪府庁(彦野公太朗撮影)

《大阪府では新型コロナウイルス感染の第4波に際し、重症病床が不足する「医療崩壊」に至った。泉房穂・兵庫県明石市長は16日の産経ニュースに掲載された「コロナ直言」で、医療法7条が定める病院開設の許認可権によって都道府県知事は病院のベッド数を決めることができるとし、病床確保の権限がありながら責任を果たしていないと批判した》

知事に病床増減の権限なし

泉氏は現場をよくご存じないのだと思う。現行法で病院のベッド数を個別に増やしたり減らしたりする権限は知事にはない。許認可権を背景に(病院側と交渉し)病床を増やすというのは、荒唐無稽な話だ。

病院の開設許可に関する医療法7条は第4項で、設備や人員が要件に適合すれば「許可を与えなければならない」と定めている。仮に7条に基づき交渉や駆け引きをしようとすれば、病院側に笑われるだろう。

病床確保をめぐり、いま知事が持つ最も強い権限は改正感染症法に基づく要請だ。ただここにも限界があり、病院側に「正当な理由」があれば拒否できる。「看護師がいない」「施設内で動線が確保しにくい」などは正当な理由とされ、「お願いベース」でしか要請できないのが現状だ。

現在の診療報酬制度では平時から病床をできるだけ埋め、治療することが病院側の報酬につながる。もともと飽和状態のところに一挙に医療需要が生じる感染症が広がれば、即座に対応することは難しい。

加えて日本は諸外国に比べ病床数は多いが、医療従事者は小規模の病院や診療所に分散し、(人手不足の病院に集中させるための)機動性は高くない。クラスター(感染者集団)が発生すれば、風評被害によって経営困難に陥るリスクもはらむ。

こうした膠着(こうちゃく)化した仕組みに根本的な問題がある。病床や医療従事者といった限りある資源をいかにコロナ対応のために最適化し、有効に活用するかを追求しなければならない。

そのためには平時と有事を峻別(しゅんべつ)する必要がある。いまは平時の延長線上で病床を確保する運用になっており、病院に事実上の拒否権がある。しかし感染が急拡大し、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)する非常事態においては、病院に拒否権が生じない法律、有事法制を整備しなければ本質的な問題は解決されない。

いうまでもなく、医療の提供は、医師や看護師ら医療従事者がいて初めて成り立つ。コロナ患者を受け入れる義務がない中で、使命感によって命を救う活動をしてくれていることには本当に感謝している。病床を確保するには法律だけでなく、医療従事者の理解を得ることが欠かせない。

社会の安全のため私権制限を

《感染拡大を抑止するため、個人の自由に関わる「私権制限」を議論すべきだというのも吉村氏のかねての持論だ》

府は21日の緊急事態宣言解除後も原則、飲食店に酒類提供の自粛を要請している。しかし店がどれだけ対策していても、利用者が大騒ぎすれば感染は広がってしまう。

日本で個人の自由は憲法上保障され、一切制限しないことを前提に感染対策が求められる。これでは事業者ばかりに負担がかかり、実効性のある対策を取れない懸念がある。将来、コロナより恐ろしい感染症が日本で蔓延(まんえん)する可能性も否定できない。私権制限の是非を議論すべきだと主張する理由は、こうしたところにある。

感染が爆発的に拡大するようなときは、命と社会の安全を守るために個人の自由が一定制限されることもあり得る-。このことをタブー視せず、国会での法律制定に向けて政治家が議論すべきだ。(聞き手 尾崎豪一)

よしむら・ひろふみ 九州大法学部卒。平成12年に弁護士登録。23年の大阪市議選で初当選し、衆院議員と大阪市長を経て31年の大阪府知事選で初当選。現在1期目。大阪維新の会代表。