香港の大手紙、蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)の休刊について、台湾大手紙、自由時報で総編集(編集局長)を務める鄒景雯(すう・けいぶん)氏に聞いた。
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中国には「抄家滅族」という言葉がある。「屋敷を捜索して財産を没収、一族郎党を皆殺しにする」という意味だが、いにしえの時代、皇帝に逆らったものに下される厳しい罰の一つだ。今回、香港当局は、蘋果日報の創業者、黎智英(れい・ちえい=ジミー・ライ)氏を投獄したあと、主要幹部を次々と逮捕し、資産も凍結して同紙を休刊に追い込んだ。一連のやり方を見て、中国でいまだに封建王朝的支配が継続されていることを実感させられた。
中国当局は蘋果日報について「外国勢力と結託し、国家安全に危害を与えた」などと断罪しているが、全く当たらない。同紙は社説などで、報道機関として極めて真っ当な意見を述べたにすぎなかった。
1997年の香港返還当時、中国は国際社会に「今の社会制度を50年間変えない」と約束したのに、香港国家安全維持法(国安法)を施行するなど「一国二制度」を事実上否定した。約束を守らなかったのは中国当局であり、同紙は平和的手段を使い香港人の権益を守ろうとしただけだった。
かつて、台湾でも一党独裁の時代があり、メディアは当局の監視下にあった。先輩たちは地下雑誌を発行するなどして果敢に戦い、言論の自由を勝ち取った歴史があった。今の香港当局の後ろには巨大な中国政府があり、自由を求める香港のメディア人が置かれる状況は当時の台湾よりもっと厳しいに違いない。
中国政府が蘋果日報に対して行ったことは、香港社会だけではなくすべての民主主義国家に対する挑発行為といえる。私たちはここで何もしなければ、中国はますます増長し、対外拡張を続けてやがて私たちの暮らしも中国により破壊される。今こそ全世界の民主主義国家は連携して中国の独裁者に圧力を加えるべきだ。民主主義対独裁体制。私たちにとって負けられない戦いは始まっている。(聞き手 矢板明夫)