香港の蘋果日報(アップルデイリー)が発行停止を発表したことを受け、旧宗主国である英国でBBC放送(電子版)が23日、「香港のメディアの自由に打撃を与えた」との見方を示すなど、各国から報道の自由が失われることに対する懸念の声が相次いだ。
BBCは蘋果日報について「香港で最も大きな『民主主義の声』の一つ」とし、「長期にわたり、中国語圏における報道の自由を照らし出す光だった」とたたえた。
「香港と中国の指導者を批判する代表的な出版物」とし、「26年間で中国に挑戦する数少ない存在へと進化した」と強調。「香港の反体制派に広く支持されてきた」と振り返った。
また、BBCは、香港政府が政府に反発する声を抑える新たな手段を講じる可能性が懸念されているとの見方を示した。
発行停止の発表を受け、英紙ガーディアン(同)も「民主化運動のシンボルがなくなった」と指摘。英スカイニューズ・テレビ(同)は香港でのメディアの自由やその他の権利が失われるという「警戒感が高まっている」と強調した。
米国のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は「中国は実質的に蘋果日報を沈黙させた」と報じるとともに、住民の「アップル・デイリーが『禁断の果実』になろうとは思わなかった」との落胆の声を紹介した。
一方、ロシアメディアは事実関係を淡々と伝えるにとどめた。国営イタル・タス通信は23日、蘋果日報が発行停止を発表したとする記事を配信。同社の声明の一部を引用し、香港国家安全維持法(国安法)に基づく資産凍結や編集幹部の拘束などの経過も伝えた。
政権と一定の距離を取る民営インタファクス通信をはじめ、露各紙や独立系メディアの多くは休刊を報じても事実関係のみの短い記事にとどまっている。
ただ、蘋果日報の休刊は露メディアにとって人ごとではない。プーチン政権は現在、政権に批判的なメディアを中心に、スパイと同義語の「外国の代理人」への指定を進めている。財務状況や活動内容などが当局の厳しい監視下に置かれる外国の代理人制度は、政権による実質的な言論封殺の手段となっている。
実際、良質な調査報道で知られる電子新聞「メドゥーザ」は4月に外国の代理人に指定され、多くのスポンサー企業が撤退。経営が悪化し、存続が危ぶまれている。5月に指定された電子メディア「Vタイムズ」は今月、広告収入減少を理由に活動停止を発表した。(ロンドン 板東和正、モスクワ 小野田雄一)