『京都 古民家カフェ日和』(世界文化社)を手に取った。著者の川口葉子さんは、全国2千軒以上のカフェや喫茶店を訪れた経験を持つ。自身で撮影した写真とともに、多様なメディアでその魅力を発信している。
私は、2年前に出版された『東京 古民家カフェ日和』を入手し、仕事で出向いた東京で空いた時間に、掲載されたカフェを訪ね歩いて楽しんでいた。赤坂の繁華街にぽつんと取り残されたようにある木造家屋を利用した店など、感動すら覚えたものだ。本書は、その京都版。古い洋館や京町家を含む、築50年以上の建物を転用・再生したカフェ、43軒を紹介する。
二条城近く、1946年に「風呂なし1K」として建てられた7坪の老朽家屋を愛おしい空間に改修した「二条小屋」(中京区)。登録有形文化財である1927年築、旧京都市電の車庫兼事務所を利用した、茶筒の老舗・開化堂が運営する「Kaikado Café」(下京区)、玄関先で大きなバナナの木が出迎えてくれる築130年の町家をリノベーションした「Café Bibliotic Hello!」(中京区)など、何度か行ったことのある店も、著者の紹介文でその奥行きを知る。
一方、知らなかった店もたくさんある。
昨秋、築130年の町家を改修してオープンした「本日の」(中京区)。ワコールが展開する一棟貸しの宿に隣接するベーカリー&カフェだが、揚げたての柔らかな牛カツを用いた「牛カツサンド」のおいしそうな写真にそそられる。
日本茶の文化を発信する「間-MA-」(南区)も興味深い。写真に添えられたコメント。「天井の梁(はり)が最長8メートルもあるのは洛外ならでは。洛中だとこの長さの材木は運ぶときに道を曲がれないんです」。このダイナミックな建物は、約100年にわたり炭問屋や質屋として使われてきたそうだ。
まだまだ大手を振って出歩くのは憚られるが、京都の古民家カフェで建物の持つ悠久の時間に身を委ねながら、のんびりと過ごすくらいは許されるのではないだろうか。本書片手に出かけてみたい。(通崎睦美 木琴奏者)
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つうざき・むつみ 昭和42年、京都市生まれ。京都市立芸術大学大学院修了。マリンバとさまざまな楽器、オーケストラとの共演など多様な形態で演奏活動を行う一方、米国でも活躍した木琴奏者、平岡養一との縁をきっかけに木琴の復権に力を注いでいる。執筆活動も手掛け、『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』で第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)と第24回吉田秀和賞をダブル受賞。アンティーク着物コレクターとしても知られる。