資産凍結で「香港の報道機関」圧殺 蘋果日報休刊

蘋果日報を複数買う男性=18日、香港(ゲッティ=共同)
蘋果日報を複数買う男性=18日、香港(ゲッティ=共同)

23日に休刊を発表した香港の蘋果日報(アップルデイリー)は、報道内容を特定した一時的な発禁処分でなく、香港国家安全維持法(国安法)に基づく資産凍結という形で事業継続の断念に追い込まれた。月末の国安法施行1年と7月1日の中国共産党創立100年を前に、香港と中国の当局は、個別活動家の弾圧から報道機関の圧殺へと踏み込んだ。他メディアへの威嚇効果も大きい。

共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は19日、蘋果日報を「反中乱港(中国に逆らい香港を混乱させる)のとりで」と評して編集幹部らの起訴を支持した。中国外務省の香港出先機関、駐香港特派員公署は22日の声明で、国安法による同社摘発を「法があれば従い、法に反すれば追及する」と擁護。香港政府トップの林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は同日の記者会見で、全く同じ表現で国安法適用を正当化し、中国政府との連携を示唆した。

香港当局は17日に編集幹部ら5人を逮捕し蘋果日報など3社の資産1800万香港ドル(約2億6000万円)相当を凍結。銀行7行に対しては、3社に関連した資金移動だけでも国安法違反になると警告した。

蘋果日報を傘下に持つメディアグループ「壱伝媒」の主要取引銀行が「将来、(自行が)国安法違反に問われる恐れ」(香港メディア)からグループ関連の全口座を自主的に凍結し、事業停止は不可避となった。

蘋果日報の休刊が他のメディアに与える影響も大きい。蘋果日報は「外国勢力と結託し国家の安全に危害を加えた」罪に問われているが、具体的にどの記事が該当したかは明らかにされておらず、当局が違法とみなす基準が不明だ。全国人民代表大会(全人代)の香港代表、呉秋北氏は週刊紙「香港01」やネットメディア「立場新聞」などを「反中乱港のプラットフォームだ」と名指しで敵視した。

林鄭氏は22日の会見で「国安法の厳正な執行には威嚇効果もある」と述べ、蘋果日報以外の反中・反香港政府報道への萎縮効果も期待していることを示唆した。(田中靖人)

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