かつては電気街として知られた大阪・日本橋(大阪市浪速区)。近年はフィギュアやアニメなどの店が多く集まるサブカルチャーの街に変貌し、インバウンド(訪日外国人客)向けの出店も相次ぐなどにぎわいが続いていたが、新型コロナウイルスの影響で人の往来は激減した。インバウンド向けの店舗が退く中で、街の再生に挑むため、ホビー店は巣ごもり需要を狙い、残った飲食店は地元客に愛される店へと方向転換を図る。
アニメだけじゃない
「免税専門店は一部を除いてなくなり、10軒ほどあったホテルの半分は廃業や休業になっています」
こう話すのは、日本橋の商店街活性化を目的に地元有志が設立した会社「日本橋まちづくり振興」の野村正則社長。平成25年を境に、街のメインストリートである堺筋沿いから電気店は姿を消し、跡地にはインバウンド向けのホテルや免税店が林立したが、それはコロナで大打撃を受けた。
それでも、日本橋ににぎわいが戻ってくると信じる野村社長はコロナ禍でも客足の安定している電子部品の店や、根強いファンがいるアニメ、コスプレ、フィギュアの関連商品がそろう日本橋を「ホビーの街」として、アピールし続ける考えだ。「日本橋にはさまざまな顔があり、ここでしか手に入らない商品もある」
巣ごもり需要が牽引
実際、コロナ禍でも盛況な店がある。ロボットアニメのガンダムシリーズのプラモデル(ガンプラ)やフィギュアなどを販売するホビー店だ。幼少期にプラモデルを組み立てて遊んだ世代がコロナ禍の巣ごもりを機に再び始め、需要が拡大しているという。
昨秋開業した「ジャングル空想的機械館メカストア」は1階フロアの9割がガンプラコーナー。店舗責任者の松尾勇輝さん(26)は「再販や新商品は入荷日を告知すると午前中には売り切れる」と明かす。同社は、未使用の商品の買い取りも行っており、新品の供給不足を中古品でカバーしている。
また、ガンプラ新品販売を行う上新電機の「Joshinスーパーキッズランド本店」でも、「仕入れも難しい状況が続いており、お客さまの期待に応えられないのが悩ましい」とうれしい悲鳴をあげる。
その一方で、上新電機は昨年、家電製品などを扱っていた日本橋の3店舗を耐震・補強工事もかねて、1店舗に集約した。ただ、日本橋は同社の発祥の地、特別な場所でもある。経営企画部の島安姫(あき)課長代理は「全国各地の店舗に比べて、売り上げはけして大きくはないのは確か。しかし、専門性を求めて訪れる古くからのお客さまを大事にしていきたい」として、今後は家電中心の「新日本橋1ばん館(仮称)」を新しく開く計画だ。
地域に愛される店へ
コロナ禍で、苦戦を強いられてきた飲食店。日本橋でも、昨年7月、堺筋沿いの一等地、高島屋東別館にオープンした「コミュニティーフードホール大阪・日本橋」が戦略の見直しを迫られた。
「食とエンタメ」をテーマに、複数の飲食店が入居するスペースとして開業した。ところが開店時に入っていた常設のテナント10店舗は、半年でほとんどが入れ替わる状態に。
当初、インバウンドを見込んでいたが状況が一変したため、地元客を重視する方針を新たに掲げている。住民や地元企業向けにポスターや新聞広告などでPRを開始。感染対策で需要が高まっている貸し切りや定額プランなども打ち出すほか、周辺ホテルと連携して食事付きのビジネス研修会も企画する。
建物は近く重要文化財に指定されることから、運営会社の紙谷幸弘社長は「価値ある場所で働けることを誇りに、何とかみんなで踏ん張ろうと声を掛け合い、士気を高めている」と前を向く。
一方で、昭和の町並みが残る路地裏でアジア料理「アジアンカフェ ハッチン。」を営む八代一也さん(46)は「大きな声で食べに来てといえないことが一番つらい」と嘆く。
10余りの弁当を自転車に乗せ、3キロ先の住宅街に売りに行くなどして何とかしのぐ日々。だが、常連客の「多くの店が閉めているので困っていた。開けといてくれてありがとう」という言葉に励まされ、休業はしない。「お世話になった地域の人たちへの恩返しのつもり」と決意を語る。
これまでも電気街からサブカルの街、インバウンドの街へとたびたび表情を変えながらにぎわいを保ってきた日本橋。地元客も大切にしながら生き残り策を模索していく。(北村博子)
退店が出店上回る
大阪・日本橋の地図や街の話題を提供するフリーペーパー「pontab(ぽんタブ)」は、かつて電気店が多く集まった「でんでんタウン」エリア(大阪市浪速区難波中2丁目と日本橋3~5丁目)で、平成17年からの出退店状況を独自で調査し、発表している。
楠瀬(くすのせ)航編集長によると、令和2年は地域全体で出店が58、退店が70の12店減となり、「全体の店舗数が減少に転じたのは調査開始以来初めて」という。テレワークが急速に進んだことを受け、中古パソコンを求める人が増え、専門店の出店が微増。一方で、インバウンド向けの薬局や免税店などの閉店が相次いだ。
飲食店については出店数が28で、退店数は30。ただ、現在も休業中の店も多く、「今年の退店数に影響する可能性も大きい」と指摘している。
令和3年1~5月の調査では出店17、退店18となっている。