学生時代、深夜ラジオを聞くのが楽しみだった。特に熱心に聞いたのは、応援していた音楽ユニットがパーソナリティーを務める番組。メンバーの出身地、愛知県のAMラジオ局が放送していた。
といっても、当時私が住んでいたのは横浜市。ラジカセのアンテナを限界まで引っ張っても、昼間は雑音ばかりで何も聞こえない。ところが深夜になると、かなり小さな音ではあるが、確かに番組が聞こえたのである。悪天候の日はまるで聞こえなかったり、違う放送局の音が聞こえてきたりもしたが、番組をカセットテープやMDに録音し、自分の投稿が読まれた日は何度も聞き直したものだ。
そんな「AMラジオ」がなくなる日が来そうだ。AMラジオ放送を行う民間事業者全47社でつくる「ワイドFM対応端末普及を目指す連絡会」は15日、全国44のAMラジオ局が、令和10年秋までにFM局への転換を目指すと明らかにした。一部の局は10年以降も補完放送としてAMを継続するが、在京3社(TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送)は同時期までにAMを完全に停波する方針だ。
AMラジオを送信するには、広い敷地に高さ100メートル規模のアンテナが必要。設備が老朽化する中、比較的簡易な設備で維持費も安いFM放送に切り替えたいと各局が考えるのは仕方がない。転換後のFMは原則、旧来のラジオで受信できない周波数の「ワイドFM」のため、受信機器の普及が急がれる。
もっとも、AMラジオが消えるころには、ラジオはインターネットで聞くものになっているかもしれない。パソコンやスマートフォンで全国のラジオ局の番組が楽しめる「radiko(ラジコ)」の利用者は増え続け、放送波を上回る聴取者を獲得している。リアルタイムで楽しむだけでなく、放送終了後も一定期間聞ける番組もある。地域も時間も電波の長短も飛び越えられる、ラジオ好きには喜ばしい時代が来た。
一方で、スマホのスピーカーから聞こえる音声には、雑音混じりのざらざらとした手触りがない。途切れそうなのに、確かにつながっている。そんな深夜のAMラジオでないと届けられないものに、笑い、救われ、夢中になったのは私だけではないはずだ。
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【プロフィル】道丸摩耶
平成12年入社。宇都宮支局、甲府支局を経て、東京本社社会部で警視庁や厚生労働省を担当。令和2年4月から文化部で放送局などを取材する。