家族など限られた人とは話せるが、学校などでは話すことのできない「場面緘黙(かんもく)症」という心の病気がある。滋賀県近江八幡市の人気パティシエ、〝みいちゃん〟こと杉之原みずきさん(13)も重い症状に苦しむ一人だ。自宅以外の場所や家族がいない状況だと不安に襲われ、話せないだけでなく体すら動かない。そんなみずきさんが昨年、「みいちゃんのお菓子工房」をオープンさせた。「お菓子でみんなを笑顔にしたい」という思いを胸にお菓子作りに励んでいる。
あっという間に完売
真っ白な三角形の屋根が特徴の「みいちゃんのお菓子工房」は近江八幡市内の住宅街の一角にたたずむ人気のお菓子店だ。開店日は月に2度ほどで来店予約が必要だが、毎回予約人数はすぐにいっぱいに。予約した人は店で自由に商品を選んで購入でき、用意したケーキや焼き菓子約180個はあっという間に完売してしまう。
学校などの集団生活の場では不安から体も動かなくなってしまうが、「自分の城」である工房では手際よく、ケーキを作るみずきさん。慣れた手つきでクリームを絞ったり、果物を盛り付けたりしながら、次々とショートケーキやガトーショコラを完成させていく。
みずきさんが作るお菓子は、スマイルマークを施したプリンや果物を花が咲いたようにデコレーションしたケーキなど、華やかでかわいらしいものが多い。母の千里さん(48)は「お菓子作りはみずきのコミュニケーション手段。かわいいお菓子は優しい性格を表しているのかな」と話す。
「暗闇にいるよう」
場面緘黙症の当事者や医師、研究者らでつくる「日本場面緘黙研究会」の事務局長で長野大の高木潤野教授(言語・コミュニケーション障害)らによると、場面緘黙症は不安症の一種で、近年の研究では小学生500人に1人程度の割合で発症していると考えられている。
専門家と保護者らによる支援団体「かんもくネット」の担当者も「自分の意思で『話さない』のではなく、『話せない』。症状を知る人はまだ少なく、性格の問題であると誤解されることも多い」と説明する。
今でこそみずきさんの夢をサポートしている千里さんだが、その道のりは平坦(へいたん)ではなかった。「苦労の連続で、暗闇にいるようだった」と振り返る。