20日の「父の日」を前に、「死んだ父の日展」と銘打ったインターネット上の展示会が開かれている。亡父に贈るメッセージをネット上で募集し、匿名で掲示しており、父親を亡くした人なら誰でも応募できる。グリーフケア(死別の悲しみから立ち直るための支援)を目的としたこの企画。中心を担った都内の大学生、前田陽汰(ひなた)さん(20)は「ある女性の一言がきっかけだった」と話す。(永井大輔)
感謝や近況を
今年5月9日の「母の日」、前田さんは中学生の時に母親を亡くした知人の女性と話をしていた。女性は、世の中が母の日のムードに包まれる中、自分は何もできないことにやるせなさを感じていたという。仏壇に手を合わせても、お墓参りに行っても、花を供えても反応はない。喜んでくれているのか分からない。
「世の中の『母の日感』がしんどい。母を亡くしているからこそ、できることがあればいいのに」
女性のそんな思いを聞き、前田さんは「死んだ父の日展」の企画を思いついた。父の日という特別な日に、感謝や近況、そして後悔など父親への思いを打ち明けられる場をインターネット上に作った。
サイトに展示された手紙には、父親の享年と、死別当時の自身の年齢が記されており、匿名性を保ったまま、自分と近い境遇の人が何を伝えたいのか、何を感じているのかを知ることができる。「書く側と見る側の両方を大事にしたい」と前田さん。80代の父親を見送った人、10代で死に別れた人など年齢は幅広い。
「手紙かくのは恥ずかしいなって思うけど、こんな日だからこそ書いてみようと思えたよ。晴れ男のお父さん。亡くなった日もそう。梅雨の時期やのに、暑いくらいに晴れたよね」。19歳の時、50歳の父親を亡くした人のメッセージの一部分だ。
「なんで自分の娘たちとお酒飲む前に亡くなっちゃうかなあ」。死別当時10歳だった女性は、56歳で世を去った父親に、「自分も今はお父さんと同じ研究の道に進もうとしてるよ」と語りかけた。
立ち直る支援
メッセージは約150件に及んでいる。前田さんは「自分と近い年齢の死別経験者のメッセージを見れば、自身の死別経験と向き合う機会にもなる。父を亡くした人のグリーフケアの一つになれば」と話した。
投稿は20日まで同サイト(https://ddd.sososhiki.jp)で受け付けている。展示は父の日の後も続けられる。