香港警察は17日、中国に批判的な報道で知られる香港紙、蘋果(ひんか)日報への捜査を一気に本格化させた。編集トップらを逮捕したほか、昨年8月の200人を上回る500人体制で家宅捜索を強行。同紙の資産も凍結した。警察は香港国家安全維持法(国安法)を盾に、中国・香港当局への〝抵抗の象徴〟でもある同紙を発行停止に追い込む構えだ。
蘋果日報(電子版)によると、本社編集局などの家宅捜索は午前8時ごろから約5時間続いた。出社してきた記者らは食堂に集められ、編集局への立ち入りが禁じられた。捜査員は机の上の取材資料やコンピューターも念入りに調べた。
昨年8月10日の家宅捜索の際、編集局に押し寄せる捜査員らと対峙(たいじ)したのが、今回、国安法違反の疑いで逮捕された羅偉光・総編集(編集局長)だった。
羅氏は、ネットを通じた動画中継を部下に指示し家宅捜索の模様を公開すると同時に、「自分の持ち場に戻って、とにかく新聞を出そう」と記者らの動揺を抑えるのに必死だった。
当時、産経新聞の取材に「香港の自由を守るために発行を続けていく」と強調した通り、その後も蘋果日報は中国に批判的な論調を変えることはなかった。
国安法が施行された昨年6月末以降、言論の自由を大幅に規制された市民たちにとっても、大手紙の中で唯一ぶれない蘋果日報は抵抗のシンボルだった。街頭で同紙を無言のまま掲げることが一つの抗議スタイルとなっていった。
だが、同紙に広告を出す企業がほとんどない中、今年5月には70億円規模ともいわれる創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏の資産が凍結されたほか、今回、同紙の資産なども凍結された。経営は瀕死(ひんし)の状況にあるとの見方が多い。
国安法31条には、会社、団体などが同法で刑事罰を受けると、運営の一時停止を命じられるか、営業許可が取り消される―とも規定されている。
窮地に陥った蘋果日報だが、この日も新聞の発行業務を続けた。昨年8月の家宅捜索の翌朝には、市民たちが同紙を買い求めるために行列を作った。当時、羅氏は「55万部をほぼ売り切り、蘋果史上、最高記録となった」とうれしそうに語っていた。
国安法施行から間もなく1年が経過する今回はどうか。18日の市民の反応が、香港の現状を示すバロメーターになる。(藤本欣也)