若者の大麻乱用が拡大する中、昨年1年間で大麻取締法違反容疑で摘発した10代の人数が全国最多となった大阪府警が、動機など取り調べで聞き取った内容について、臨床心理士らが傾向を分析する取り組みを始めた。分析結果は学校現場に提供して薬物乱用防止教育に役立ててもらい、広がる大麻汚染に歯止めをかける狙いだ。
警察庁によると、昨年大麻関連で摘発されたのは、全国では過去最多の5034人で、うち887人が10代だった。このうち、府警が大麻取締法違反容疑で摘発した10代は114人で、全国最多。高校生35人、中学生2人も含まれ、低年齢化が目立つ。捜査幹部は「集団で使用するケースが多く、それに伴い人数も多くなったのではないか」と話す。こうした事態を受け、府警は114人全員に詳細な聞き取りを実施。家庭環境▽交友関係▽使用時期▽動機-など聞き取った内容から、臨床心理士の資格を持つ警察職員が大麻使用の背景や心情などの傾向を分析する。
府警の聞き取りによると、入手経路で最も多かったのは「会員制交流サイト(SNS)」で49人(43・0%)、次いで「先輩や友人」が多く44人(38・6%)だった。理由については「周辺者が使用していた」が全体のおよそ4割を占めた。
昨年7月に大麻取締法違反容疑で府警に逮捕された女子中学生ら5人は、SNSを通じて知り合った売人から大麻を購入したといい、「SNSで大麻の写真を見て興味が深まった」と供述。今月8日には、無料通信アプリ「LINE」を通じて少年から大麻を購入したとして、府内の私立高校3年の女子生徒が同容疑で書類送検されている。
聞き取った内容は現在、臨床心理士らが分析中で、今後は府内の学校で府警が開く薬物乱用防止教室で活用したり、教育機関などに資料を配布したりする予定。細かなデータを教育現場と共有することで、子供たちと日頃から接している教員らに大麻使用の未然防止に役立ててもらう考えだ。
府警少年課の小林俊夫課長は「この取り組みを通じて、少年の大麻乱用問題に社会全体で取り組んでもらえれば」と話している。
「心が凍っていく感覚」
ほかの薬物と比べて安価で入手が容易とされ、使用の低年齢化が進む大麻だが、安易に手を出せば依存状態に陥って睡眠障害など体調に異変をもたらす危険がある。大麻を乱用した経験がある男性が産経新聞の取材に応じた。
「大麻を使ううちに感情がまひして、心が凍っていく感覚になった。薬をやらない時間は地獄のようだった」。約15年にわたって大麻を使用していた大橋広海(ひろみ)さん(35)=奈良市=は、そう振り返る。
中学3年のころ、先輩に勧められて初めて大麻を使用した。酒やたばこと同じ感覚で、友人らと一緒に使うことが一種のコミュニケーションだった。18歳で強盗事件を起こし、入所した少年鑑別所を出てからは使う頻度が増した。
家庭や学校では叱られてばかりいて、子供のころから感じていた生きづらさが大麻を使えば楽になった。音楽関係の仕事に就いてからも、アイデアが浮かびやすくなる気がして大麻を手放せなかった。
だが30歳のとき、大麻などが原因で仕事や家庭すべてを失ったことをきっかけに、やめる決心がついた。依存症の回復支援団体「ワンネスグループ」(奈良県大和高田市)に連絡し、グループが運営する依存症回復支援施設に入所。現在は職員として働き、かつての自分と同じように薬物問題で悩む人の相談に乗るなどして、入所者らを支援している。
大橋さんは「薬を使えば嫌なことを忘れられる感覚になり、現実から逃げるようになってしまう。周囲に流されずに、自分自身で薬を断つという意志を持たなければならない」と話している。(木下未希、北野裕子)