SNS不適切投稿の判事訴追 弾劾裁判で罷免審理

仙台高裁の岡口基一判事
仙台高裁の岡口基一判事

ツイッターなど会員制交流サイト(SNS)への不適切な投稿で裁判当事者を傷つけたとして訴追請求されていた仙台高裁の岡口基一(きいち)判事(55)について国会の裁判官訴追委員会(委員長・新藤義孝衆院議員)は16日、罷免を求め、岡口氏を裁判官弾劾裁判所に訴追することを決めた。訴追委員会は同日、弾劾裁判所に訴追状を提出。弾劾裁判所が罷免するかどうか公開の法廷で審理する。

裁判官の訴追は平成24年に電車内で盗撮行為を行ったとして罰金刑を受けた大阪地裁の判事補以来で10件9人目。うち7人が弾劾裁判を経て罷免されている。

岡口氏は平成29年、東京都江戸川区で起きた女子高生殺害事件に関し、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」「そんな男に無惨にも殺されてしまった17歳の女性」とツイート。フェイスブックには「遺族は俺を非難するよう東京高裁事務局に洗脳された」とも投稿した。30年には犬の所有権をめぐる訴訟で飼い主を揶揄(やゆ)するようなツイートをした。

30年以降、この2件の当事者を含め訴追請求が相次ぎ、訴追委員会は2度にわたり岡口氏から事情聴取するなど処分を検討していた。一方、投稿をめぐり最高裁は「裁判官に対する国民の信頼を損ねた」として30年と昨年の2度、戒告の懲戒処分とした。

岡口氏は平成6年任官。水戸地裁や大阪高裁、東京高裁を経て、31年4月から仙台高裁に所属している。

訴追決定を受けて岡口氏の代理人弁護士は「罷免事由に該当するような行為は全くなく、決定は極めて遺憾。弾劾裁判において罷免事由がないことを主張していく」とコメントした。

殺人事件の遺族、岩瀬裕見子さん(53)は「まだ結論が出ているわけではない。一日も早く弾劾裁判で(罷免の)判断を決定してほしい」と思いを語った。

岩瀬さんは「審査に時間がかかり過ぎたという思いがある。なぜこのタイミングでの判断なのかという疑問もあるが、少しはほっとしている」と評価。

「SNSでの誹謗(ひぼう)中傷は命を奪うもので、社会全体で問題になっている。岡口氏の投稿は犯罪行為ではないが、このような形で弾劾裁判まで行くことになったというのは大きい」とし、「表現の自由では済まされないということが、岡口氏本人にも伝わってほしい」と訴えた。

岡口氏が投稿で取り上げた犬の所有権をめぐる訴訟で、飼い主側の代理人を務めた渡辺正昭弁護士も「誤った事実をネットで広め、飼い主がバッシングを受ける被害が起きた。行き過ぎた表現活動であり、表現の自由として保護されるべきではない」と述べた。

裁判官訴追委員会は、裁判官を罷免する権限を持つ国会の裁判官弾劾裁判所に訴追するかどうかを決める機関だ。衆参両院議員10人ずつ計20人で構成され、非公開で話し合い、「訴追」「訴追猶予」「不訴追」のいずれが相当かを決める。

訴追または訴追猶予とするには訴追委員会に衆参各7人以上が出席し、その3分の2以上の賛成が必要となる。訴追請求は誰でもできる。

裁判官弾劾法は、職務上の義務違反が著しい▽職務怠慢が甚だしい▽裁判官としての威信を著しく喪失させた-のいずれかに該当する場合のみ、弾劾による裁判官の罷免を求める訴追ができると規定。弾劾裁判が開かれるのは、訴追委員会が「訴追」を決定した場合のみだ。

憲法で身分を保障されている裁判官は、病気などで職務が行えない場合を除き、弾劾裁判所の審理を経ない限り辞めさせられない。

弾劾裁判所は衆参両院議員7人ずつ計14人で構成され、公開の法廷で審理し、3分の2以上の賛成で罷免を言い渡す。不服申し立てはできず、罷免されれば法曹資格を失う。退職金も支払われないが、罷免判決から5年経過すれば資格回復を求められる。