勇者の物語

奇跡の「エール」 応援団もフェアプレー 虎番疾風録番外編247

第3戦の試合前、スタンドで握手を交わす西本人形と古葉人形
第3戦の試合前、スタンドで握手を交わす西本人形と古葉人形

■勇者の物語(246)

日本シリーズで“ドラマ”が起こるのはグラウンドだけではない。10月30日、第3戦が行われた広島球場の内野席でも、心温まるシーンが展開された。

広島球場のスタンドは昔から怖かった。熱狂的な赤ヘルファンが球場全体に陣取り、他球団のファンが内野席に来ようものなら、空き缶は飛んでくる、ミカンの皮は投げつけられる。シーズン中、他球団の応援団は外野席の片隅に追いやられた。

その広島球場に近鉄の大応援団約100人とブラスバンドが、外野席ではなく内野席の最前列に陣取ったのである。これには訳があった。

「2度目の日本シリーズ、ボクたちも少しは進歩したところを見せにゃいけん。フェアプレーの精神です」という広島応援団の通称“ひげのおじさん”上田倉男団長(当時45歳)の発案で、10月23日に広島と近鉄両応援団が話し合い、次の「紳士協定」が結ばれていた。

①近鉄応援団の身の安全はカープ応援団が保証する

②相手の攻撃中に応援はしない

③汚いヤジは飛ばさない

④近鉄応援団の席は確保する

そしてこの日の試合前、両軍が「エール」を交換し、古葉人形と西本人形が固い握手をかわした。

それでも、警戒のため近鉄の応援団を取り囲むように警察官が並び、スタンドには約400人の警察官が配置された。

試合は白熱する。近鉄が一回、1死満塁で栗橋の押し出し四球などで2点を先制すれば、広島は二回、水谷が近鉄の先発・村田から中堅に1号ホームラン。四回表を終わって2-1と近鉄の1点リード。その裏、緊張の場面が起きた。

先頭の三村が四球で歩いた無死一塁で、山本浩が二ゴロ併殺に倒れると、うれしさのあまり近鉄応援団が太鼓を打ち鳴らしたのだ。「一瞬、身がピリッと引き締まった」と警察官。そのとき、近鉄の応援団長が叫んだ。

「アホたれ! 約束を忘れたんかい。広島の攻撃中は我慢せんかい!」

その光景を見ていたカープファンから大きな拍手が起こった。

奇跡の「エール」-。そしてグラウンドでも七回、このシリーズの流れを変えるドラマが展開されたのである。(敬称略)

■勇者の物語(248)

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