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コロナ禍で「ごく普通の日常」に共感 没後40年の向田邦子さん関連本続々

没後40年も愛される向田邦子さんの本(鴨志田拓海撮影)
没後40年も愛される向田邦子さんの本(鴨志田拓海撮影)

人気ドラマの脚本を手掛け、エッセーを書き、短編小説で直木賞受賞…と目覚ましい活躍をしていたさなかに飛行機事故で51年の生涯を閉じた向田邦子さん(1929~81年)。8月で没後40年を迎えるのを前に、関連本が相次いで出版されている。昭和はもちろん、平成を超え、令和となった今も、作品が読み継がれ、注目される向田さんの魅力とは-。

『向田邦子ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)は、末妹の和子さんが向田さんのエッセーの中から、家族、食、旅、仕事などテーマ別に50編を精選した1冊。昨年3月の刊行から1年余で16刷9万1200部と好調だ。

紀伊國屋書店によると、購買層で最も多いのは向田さんのドラマをリアルタイムで見ていた50代以上だが、次いで多いのが30~40代、また20代も約1・5割いる。向田さんの活躍を知らない世代にも支持が広がっていることについて、筑摩書房宣伝課の尾竹伸さんは「向田さんが多方面で活躍し、エッセーを書いていたのが30~40代。とくに女性は、仕事に没頭しながらもおしゃれを楽しみ、おいしいものや旅を愛した向田さんの暮らしや生き方のセンス、自立した姿勢に共感しているのではないでしょうか」と話す。

同書が刊行された昨年3月は新型コロナウイルスの感染が日本で拡大し始めたころ。翌4月には首都圏で緊急事態宣言が発出され、外出自粛が呼びかけられた。「コロナ禍という状況が向田作品のよさを再認識するきっかけになっているのでは」と指摘するのは、新潮社出版部の田中範央さんだ。

『向田邦子の恋文』(平成14年)や『向田邦子 暮しの愉しみ』(15年)の編集に携わった田中さんは、コロナ禍の今だからこそ、向田作品が描く「ごく普通の日常」がより魅力的に見えるのではないかという。「向田作品の舞台は戦時中や家父長制の残る昭和。今と比べると決して暮らしやすいわけではないが、親子の情愛はずっと深かったはず。コロナ禍でこれまで当たり前と思っていた暮らしが当たり前でなくなる中、昭和の頑固(がんこ)親父や優しい母親の姿に触れることでほっとしたいと思った人が多かったのではないか」

『暮しの~』は向田さんのライフスタイルを特集したムック本で、毎年のように版を重ねており現在24刷7万1000部。また、新潮社が今年4月に出版した名言集『少しぐらいの嘘は大目に-向田邦子の言葉』(碓井広義編)は、2カ月で4刷2万4000部とこちらも好調だ。

向田さんが亡くなったのは、短編集『思い出トランプ』の中の「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」で直木賞を受賞してから約1年後。当時、脚本家やエッセイストとしてすでに高い評価を得ていたものの、作家としてはまさにこれからという時期で、生前に出版されていた単行本はわずか5冊だった。

死去後、週刊誌に連載していたエッセーやドラマの脚本、対談集などが相次いで出版され、亡くなった8月には毎年のように女性誌などで特集が組まれてきた。さらに、向田さんが愛した本やファッション、旅、食へのこだわり、美術品など、さまざまな切り口から向田さんを紹介する本が刊行され、ロングセラーとなっているものも少なくない。

多くの向田作品を扱っている文春文庫の一番人気は『父の詫び状』で、旧版と新版を合わせ累計153万4000部(単行本や全集・電子書籍除く)。同書は向田さんが初めて出したエッセー集で、すぐ怒鳴る父親を中心に、古きよき中流家庭の日常が描かれ、生活人の昭和史としての評価も高い1冊だ。文藝春秋文春文庫部の北村恭子さんは「亡くなって40年もたつのに、向田さんの作品にはちっとも古びない魅力がある。人間の本質を描き、自分に正直で噓がないところに大きな魅力を感じている人が多いのではないでしょうか」と話す。

7月には『文藝別冊 向田邦子 増補新版』(河出書房新社)、『向田邦子シナリオ集』(ちくま文庫)の出版も予定されている。筑摩書房の尾竹さんは「向田作品は、世の中が変わっても変わらない人間のささやかな事柄、人間の原点を、やさしい言葉で綴っている。これを機会にぜひ手に取ってもらいたい」と話している。