頼れる「目」に導かれ ともに闘う パラアスリートたち

競泳男子100メートル自由形でゴールに向かう木村敬一。タッピングに使う棒は、釣りざおやビート板などを用いて手作りされている=横浜国際プール =横浜国際プール(佐藤徳昭撮影)
競泳男子100メートル自由形でゴールに向かう木村敬一。タッピングに使う棒は、釣りざおやビート板などを用いて手作りされている=横浜国際プール =横浜国際プール(佐藤徳昭撮影)

アスリートが「孤独の闘い」と表現されるのに対して、視覚障害のパラアスリートには「目」となる存在がいる。選手たちの最高のパフォーマンスの陰には、ともに闘う「仲間」との信頼関係がある。

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「信じているから、トップスピードで壁に突っ込んでいける」

競泳男子の木村敬一(30)=東京ガス=は言い切る。

水泳男子100メートル平泳ぎ(視覚障害SB11)の決勝に臨む木村敬一(右)とタッパーの寺西真人さん =横浜国際プール(佐藤徳昭撮影)
水泳男子100メートル平泳ぎ(視覚障害SB11)の決勝に臨む木村敬一(右)とタッパーの寺西真人さん =横浜国際プール(佐藤徳昭撮影)

ゴールやターンの際、壁の1~2メートル手前で、プールサイドに立つ「タッパー」が、棒を使って頭などをたたく「タッピング」で、プールの壁の接近を知る。激突の危険はもちろん「息が合わないと、1秒近くタイムが変わる」と木村は言う。

木村のタッパーの寺西真人さん(61)は、木村を中高の盲学校で指導した元教諭。寺西さんは「試合では木村と一体となって泳いでいる感覚。それが阿吽(あうん)の呼吸を生む」と話す。

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陸上女子の走り幅跳びでスタート前の高田千明。コーラーの大森さんが、跳躍の直前まで助走路の中央に立ち、手拍子と声で合図する =国立競技場(蔵賢斗撮影)
陸上女子の走り幅跳びでスタート前の高田千明。コーラーの大森さんが、跳躍の直前まで助走路の中央に立ち、手拍子と声で合図する =国立競技場(蔵賢斗撮影)

陸上女子、走り幅跳びの高田千明(36)=ほけんの窓口=が、耳をふさぐようなしぐさを見せた。「コーラー」の大森盛一さん(48)の声と手拍子を聞き逃すまいと聴覚を研ぎ澄ます。「声と神経をつなげる」と高田は表現する。

コーラーは声と手拍子で選手に踏み切りの位置などを伝える。「イチ、ニ、サン…」。15歩目。助走した高田が1メートル幅の踏み切りエリアで鮮やかに跳躍した。

競技を始めて8年。恐怖心は完全には拭えないが「何かあれば大森さんなら体を使ってでも止めてくれる。声に導かれるまま全力を出すだけ」。二人だからこそ武器のスピードを最大限に生かして跳べる。

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「水の中では、障害の不自由さを感じさせない」

競泳でタッパーを務める風間みどりさん(59)は、20年ほど前、息子が事故で身体障害を負い、パラ水泳の世界へ足を踏み入れた。

ジャパンパラ水泳男子100メートルバタフライの決勝に臨む富田宇宙をタッピングする風間みどりさん(右) =横浜国際プール(蔵賢斗撮影)
ジャパンパラ水泳男子100メートルバタフライの決勝に臨む富田宇宙をタッピングする風間みどりさん(右) =横浜国際プール(蔵賢斗撮影)

7年ほど前、息子と同じクラブチームに所属していたきっかけで、東京パラリンピック日本代表に内定している富田宇宙(日体大大学院)のタッピングを始めた。練習では一日500回は行い、「これまで数え切れないくらいたたいてきた」。

タッピングの棒は規定がなく、釣りざおやボディーボードを使って手作りしている。選手や種目によって使い分けが必要で、トップアスリートの場合、スピードが違うため、感覚や経験がなければ難しいという。

「絶対にたたいてくれるという信頼の下、全力で泳いできてくれる」と風間さん。富田の〝目〟として、東京パラリンピックに臨む。

信頼という光に導かれるように選手が泳ぎ、走り、躍動する。舞台となる東京パラリンピックは、あと2カ月余りで開幕する。

陸上のトラック競技に臨む選手と伴走者。「テザー」と呼ばれる伴走ロープでつながれている =高松市の屋島レクザムフィールド =屋島レクザムフィールド(鳥越瑞絵撮影)
陸上のトラック競技に臨む選手と伴走者。「テザー」と呼ばれる伴走ロープでつながれている =高松市の屋島レクザムフィールド =屋島レクザムフィールド(鳥越瑞絵撮影)
トライアスロンの大会で、バイクに乗る米岡聡(左)。タンデムバイクの前方にガイドが乗り、同じガイドとスイム、ランも行う =横浜市中区(福島範和撮影)
トライアスロンの大会で、バイクに乗る米岡聡(左)。タンデムバイクの前方にガイドが乗り、同じガイドとスイム、ランも行う =横浜市中区(福島範和撮影)
女子走り幅跳び 耳を研ぎ澄まし、集中する高田千明(右)。左はコーラーの大森盛一さん =国立競技場(蔵賢斗撮影)
女子走り幅跳び 耳を研ぎ澄まし、集中する高田千明(右)。左はコーラーの大森盛一さん =国立競技場(蔵賢斗撮影)
女子走り幅跳び 髪を振り乱し着地する高田千明 =国立競技場(蔵賢斗撮影)
女子走り幅跳び 髪を振り乱し着地する高田千明 =国立競技場(蔵賢斗撮影)
男子5000メートル 伴走者とつながるロープをしっかりと持ち、ゴールを目指す谷口真大(右) =国立競技場(蔵賢斗撮影)
男子5000メートル 伴走者とつながるロープをしっかりと持ち、ゴールを目指す谷口真大(右) =国立競技場(蔵賢斗撮影)
男子5000メートル 伴走者とロープでつながり力走する選手ら =国立競技場(桐原正道撮影)
男子5000メートル 伴走者とロープでつながり力走する選手ら =国立競技場(桐原正道撮影)

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