ロングセラーを読む

「日本型」を形作るもの 濱口桂一郎著『新しい労働社会 雇用システムの再構築へ』

『新しい労働社会』
『新しい労働社会』

新型コロナウイルス禍によるテレワーク急増で社員の業績評価が難しくなる中、今こそ日本の雇用システムを欧米流の職務(ジョブ)に基づく制度に転換すべきだ-。昨年来、経済メディアを中心に大ブームとなっている「ジョブ型雇用」導入論。日本企業が抱える長時間労働や低い生産性など諸問題の解決策と期待されているが、この流行語の「原典」をひもといてみれば、そう単純な話ではないことが分かる。

本書は「ジョブ型」の名付け親かつ労働政策研究の第一人者として知られる濱口桂一郎氏が、日本型雇用システムの特質と日本社会との関係についてクリアに整理する。平成21年の刊行以来、12刷約4万部を数え、雇用という視点からの卓抜な日本社会論としても読み継がれている。

ジョブ型とは、企業内の労働を細かくジョブとして切り出し、そのジョブのみに対応する労働者を採用する世界中の先進産業社会標準の雇用システムのこと。対する日本型雇用の本質は「職務の定めのない雇用契約」にあり、いわば「メンバーシップ型」だとする。企業は職務や勤務地を命じる強い人事権を持つ代わりに、部門閉鎖などで職務がなくなった場合でもジョブ型のようには解雇できず、別の職務に異動させて極力雇用を維持することが求められる。「日本型雇用システムの特徴とされる長期雇用制度、年功賃金制度および企業別組合は、すべてこの職務のない雇用契約という本質からそのコロラリー(論理的帰結)として導き出されます」

そして新卒を一括採用して企業内で教育するメンバーシップ型であれば、大学で何を学ぼうが特に関係はない。だが、具体的職務を特定して雇用契約を締結するジョブ型に移行するならば、当然就職に直結した内容を学ぶ公的職業教育が重要になる。現行の学校教育法で「学術の中心」と位置づけられて職業教育とは疎遠で済んでいた文系大学教育も、卒業生の圧倒的多数が就職する以上は変わらざるを得なくなるのだ。雇用システム改革は企業の人事にとどまる話ではなく、家族のあり方や社会保障、教育など、日本のさまざまな社会制度と深く連関した重要問題であることを本書は教えてくれる。

会員限定記事会員サービス詳細