再演で共演者も、芝居がこなれた。三吉に振り回されながら支えた妻、小春(常盤貴子)のけなげさと、娘たち(江口のりこ、森田涼花)の深い愛情が胸を打つ。特に母の死後、心を鬼にして父に諫言(かんげん)立てする長女役の江口は、父親への複雑な思いと悲哀がにじむ好演。進行役の大堀こういちが、巧みな語りで観客を劇世界に誘い、三吉の後援者・宮田役の山内圭哉は、ギターの音楽も含め、いい味を出していた。
初演の小劇場の良さを残した約140席の手作りの空間で、明治後期から終戦直後の昭和まで、泥臭くも真っすぐな三吉の生涯を伴走したかのような、充実感を味わった。KAAT神奈川芸術劇場公演は終了。大阪公演は中止。(飯塚友子)
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