鑑賞眼

新ロイヤル大衆舎×KAAT「王将」 既存劇場をぶっ壊す芝居の魅力

「王将」第1部。三度の飯より将棋が好きな坂田三吉(福田転球、左)と、支える妻の小春(常盤貴子、中央)、支援者の宮田(山内圭哉)=撮影:細野晋司
「王将」第1部。三度の飯より将棋が好きな坂田三吉(福田転球、左)と、支える妻の小春(常盤貴子、中央)、支援者の宮田(山内圭哉)=撮影:細野晋司

公共劇場であるKAAT神奈川芸術劇場という枠を、のっけからぶっ壊しにかかった長塚圭史・新芸術監督と、その心意気を支えた俳優、スタッフに拍手を送りたい。同劇場1階の吹き抜け空間(アトリウム)に設えられた「王将」特設劇場が面白く、将棋の駒をあしらった大漁旗に囲まれ、芝居小屋の雰囲気を醸し出す(美術・堀尾幸男)。開館10年目である意味、横浜の官公庁街になじんでいた空間が、今作で演劇界の発火点になりそうな熱と泥臭さを帯びた。

劇作家・北條秀司(1902~96年)が、浪速の伝説的将棋棋士、坂田三吉(1870~1946年)を描いた「王将」3部作(長塚構成台本・演出)の一挙上演。長塚も所属する新ロイヤル大衆舎が2017年、東京・下北沢の小劇場で上演し、評判になった舞台の再演だ。3部を通して見ると計約6時間だが、長さを感じさせない。

「王将」特設劇場の〝外観〟
「王将」特設劇場の〝外観〟

読み書きもままならない〝素人名人〟から出発した三吉(福田転球)が、将棋一徹で駆け抜けた明治、大正、昭和を、それぞれ創作も交えてたどる評伝劇。家業そっちのけで将棋に打ち込む三吉に、翻弄されながら支える家族の物語でもある。やがて頭角を現した三吉は「関西名人」に担がれるが、東京の将棋連盟からは追放され、弟子も寝返って孤立を深める。

愚直なまでに将棋に賭ける三吉を福田が生き抜く。その熱に共演者も観客も引っ張られ、仮設舞台で将棋盤以外のほぼ何もない空間が貧乏長屋や対局会場に見えてくる。「坂田将棋がどないなもんか、見せたるわッ」と啖呵(たんか)を切る三吉に、長塚の新芸術監督としての意気込みも重なって見えた。

そして苦労を重ねて目を病み、妻にも先立たれた三吉が、自分が果たせなかった名人位の夢を弟子の森川(福本雄樹)が果たす第3部が、感動的だった。弟子の偉業に歓喜しながら、自分ではない悔しさに肩を震わせる姿に、勝負の世界の厳しさが真に迫った。