11日から開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、国際的な法人税改革も議題になる。5日閉幕したG7財務相会合では、多国籍企業への課税強化で最低税率を少なくとも15%とする合意が成立し、海外進出した日本企業が現地の税制優遇の恩恵を受けられなくなると懸念する声も出始めた。低税率国はG7に反発を強めており、世界的な合意が形成できるかは見通せない。
「世界で最も収益性の高い企業が巧妙に税負担を減らしている」-。イエレン米財務長官ら5カ国の財務相は9日、ワシントン・ポスト紙への寄稿でこう訴え、共通の最低税率の導入などに向け世界各国に「結集」するよう呼びかけた。
最低税率の設定は、外国企業を誘致するため各国・地域が続けてきた法人税の引き下げ競争に歯止めをかける狙いがある。低税率国やタックスヘイブン(租税回避地)を活用し税負担を軽減してきた多国籍企業にとって、事業戦略の見直しを迫る転機になりそうだ。
日本もかつては企業所得に占める実質的な税負担率(法人実効税率)が40%を超えたが、徐々に引き下げられ、平成30年度には29・7%になった。ただ、15%の最低税率までは大きな開きがあり、国内税率に影響を及ぼすものではない。
問題は東南アジアなどに進出した日本企業への影響だ。シンガポール(17・0%)やベトナム(20・0%)など、税率が低い上に進出企業を優遇するためにさらに法人税を減免してきた国は多い。今回のG7合意ではこうした優遇税制の取り扱いが明確になっておらず、一律に15%で線引きされた場合は進出企業への税負担増加が生じる恐れがある。
欧州連合(EU)は、最低税率導入で企業が域内に拠点を戻すなどした場合、年500億ユーロ(約6兆6千億円)の税収増になるとそろばんをはじく。産業の空洞化が進んだ日本でも、企業の国内回帰に結びつけば税収が増える可能性はある。
一方、引き下げ競争を止めるには世界全体で最低税率に合意する必要がある。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストによると、次の山場となる7月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の参加国はいずれも法人税率が15%を上回るため合意は難しくない。
ただ、アイルランド(12・5%)のドナフー財務相が「いかなる合意も大国と小国の要求を共に満たす必要がある」と批判するなど低税率国の反発は強く、約140カ国・地域の全会一致が原則の経済協力開発機構(OECD)で合意できるかが最大の焦点になる。