菅義偉(すが・よしひで)首相は就任後初となった9日の党首討論で、普段通り淡々と論戦に臨んだ。ワクチン接種の遅れなどをめぐっては、これまでの野党の言動を挙げて切り返し「攻めの姿勢」も目立った。一方、野党が追及の中心に据えた夏の東京五輪・パラリンピックに関しては、57年前の東京五輪に感動した記憶も織り交ぜながら意義を訴えたが、野党側と議論がかみ合わないシーンもみられた。
「せっかくの機会なので、私の考え方を明快に述べたい」
首相は立憲民主党の枝野幸男代表との議論でこう語り、ワクチン接種の遅れに自ら言及した。その理由となった慎重な国内治験は「野党から強い要望があった」とし、暗に野党側の責任を追及した。
徹底的な感染封じ込めを柱とする立民の「ゼロコロナ戦略」についても「御党は私権制限の強化に非常に慎重な立場だ。国民にどうやって強制的な検査を受けてもらうのか」と疑問を呈した。
約2年ぶりとなる党首討論には、政府・与党内で「野党側のアピールの場にしかならない」との懸念もあった。ただ、党首討論は野党側に反論する機会でもある。首相の姿勢からは野党側の矛盾を突く狙いがにじんだ。
五輪・パラに関しては、昭和39年の東京五輪に心を躍らせた自身の少年時代を振り返りながら、「今の子供や若者に希望や勇気を伝えたい」と強調した。大会の意義を問われることを想定し、あらかじめ準備して臨んだものだ。
大会の感染対策もアピールした。選手の8割以上がワクチンを接種して参加することや、海外メディアなどはGPS(全地球測位システム)で行動を管理し、違反した場合は強制退去させるなどの具体的な対策を列挙した。
一方、五輪中止の判断をめぐっては「国民の生命と安全を守るのは私の責務だ。守れなくなったらやらないのは当然だ」とも明言。国内の感染状況によっては中止も検討する考えを改めて示した。
ただ、枝野氏や共産党の志位和夫委員長が、国内で観客が開催地に集まるなど人流の拡大に伴う感染拡大のリスクをただしたが、明確な回答はなかった。国民の疑問に十分答えられたかという点には疑問符がつく。
野党側もテーマを絞り切れずに精彩を欠き、首相に厳しく迫るような場面も少なかった。全体的に議論が深まることはないまま討論を終えた印象を与えた。(大島悠亮)