チューブとカメラの発明が生んだ芸術表現 - 産経ニュース

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チューブとカメラの発明が生んだ芸術表現

2時間半のレッスンで記者が描き上げた点描画
2時間半のレッスンで記者が描き上げた点描画

クレパス画を描くため、大阪・梅田にある大人の絵画教室「サクラアートサロン」に入門した。クラシックな技法を学んだ後は、「印象派技法(点描)」と「現代表現(トリミング)」に挑戦する。実はこの2つの芸術表現は、近代の「技術の進歩」が大きく関わっているという。

画家が外に出て気付いたことは

モネ、ルノワール、マネ…。彼らは印象派と呼ばれる。

「いまから約300年前まで、油絵の絵の具は画家たちがアトリエで作っていました。顔料の粉に油を混ぜ時間をかけて。そんなときに、チューブ入りの絵の具が発明された。それは画期的なことでした」

再密封が可能なチューブができるまで、絵の具を戸外で扱うことが難しかった。講師の田伏勉先生の講義は続く。

「それまで室内でしか描けなかった絵画が、外でも描けるようになった。若い画家たちはこぞって外で描いた。彼らは太陽の光が作る色の美しさに気づいた。今まで自分たちが描いていたものとまったく違う光の世界があることに、気が付いたんやね」

クレパス画の第一人者、田伏勉先生(右)の指導を受ける記者=大阪市北区のサクラアートサロン大阪(南雲都撮影)
クレパス画の第一人者、田伏勉先生(右)の指導を受ける記者=大阪市北区のサクラアートサロン大阪(南雲都撮影)

前回、クラシック技法で使ったグラッシュ(グレージング)した茶色なんてどこにもない。影も灰色か黒だけで表現されるものではなく、もっと多くの色が含まれている。

1872年、32歳のクロード・モネがフランス北部の都市、ル・アーヴルの港が見える部屋の窓から、朝霧の中を昇ってくる太陽を描いた。それが『印象・日の出』。この作品に多くの若い画家たちが刺激を受けた。そんな彼らを印象派と呼んだのである。

「印象派の特徴の一つは点描です。塗りつぶすのではなく、点で色を乗せていく感じ。四角形のクレパスの辺をトントンたたくようにして描いていきます」

空も建物も壁も道もすべて点、点、点で色をつけていく。

「色の順序は明るい色から。まず、白、黄色、薄いグレー。建物の影の部分にも色を塗り重ねます。紫、紺、緑、こげ茶…。ひとつの場所で4、5色は塗り重ねてください。もちろん、点、点ですよ」

色の境界線に細く濃い線を入れ、ペインティングナイフで削り、最後はもっとも光の明るいところに、ライターで白を溶かして入れる。完成!

トリミングにも挑戦

次は「現代表現」(トリミング)。先生から1枚の写真を渡された。

「今度はこの写真の通りに描いてはダメです。写真から自分が一番描きたい部分を抜き出して、いらない部分を消したり、逆に足したり、変形したり。自分の描きたいと思ったものを描いていきます」

先生は「絵の演出」と呼んだ。実はこれも約300年前に発明されたカメラ、写真技術の進歩が大きく影響しているという。

「写実性では写真にはかなわない。だから絵画に描く意味や目的、描く者の内面が求められたんだね」

さぁて、どこの部分を描こうか…。筆者は道路を渡っている老人の背中に注目した。寂しさや悲哀が出ればいいと思った。

「それなら隣の女性はいらないし、赤い紙袋も消しましょう」と先生の指示。

紙袋まで消すと手ぶらの老人になるので、右手に「雨傘」を持たせた。描き方はこれまでと同じ。輪郭を取り、下色(白と黄)を塗ってから、それぞれの色を黙々と塗り重ねていく。

「大事なのは、この絵で一番力を入れなければいけないところはどこだ-ということを自覚すること。老人の背中を10で描くならその他は8以下でいい」

そうして完成したのが、この作品だ。実は家に持ち帰り、娘に見せて感想を聞いた。娘は高校時代、美術部に所属。その後、デザインの専門学校に進んで、現在はデザイナーをしている。

「雨傘を持たせたのがいいわね。そこに物語が見える。少し前まで雨が降っていたの? とか想像が膨らむでしょ」

なるほど。では、お前なら写真のどこを描く?

「花のある窓かな。写真では閉まっているけど、開けて誰かが顔を出しているところ。晴れやかな顔なのか、暗い顔なのかで物語が違ってくる」

先生のいう「足したり、消したり」とはそういうことだったのか…。娘の言葉にちょっと感謝。(田所龍一)

写真をトリミングして描いたクレパス画
写真をトリミングして描いたクレパス画

新型コロナウイルスの感染拡大で、在宅時間が増えたことを受け、塗り絵を楽しむ大人も増えているという。サクラクレパスにも、大人の塗り絵にぴったりの商品があるという。

「大人の塗り絵」のシリーズを発行する河出書房新社(東京都渋谷区)によると、緊急事態宣言が発令された昨年4月から12月まで、シリーズの売り上げは前年同月比を上回り続け、特に5月は前年比197%増とほぼ2倍になった。

サクラクレパスにも「大人も塗り絵を楽しめる画材があります」(同社広報)。「クーピーペンシル30 カラーオンカラー」。淡い色を多く配色し、塗り重ねていくことにより深みのある色の表現ができるのが特徴となっている。

重ね塗りしやすく、大人の塗り絵にぴったりのクーピー
重ね塗りしやすく、大人の塗り絵にぴったりのクーピー