話の肖像画

演出家・宮本亞門(63)(23)日本人に生まれてよかった

(川口良介撮影)
(川口良介撮影)

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《昨年10月に出版した『上を向いて生きる』(幻冬舎)は8年ぶりの著作だった。2年前、前立腺がんになり、手術後、いくつかの影響が出たことなども赤裸々に書き、同じ経験に悩む人たちを勇気づける》


前立腺がんの手術をしても、僕が希望を失わなかったのは、(同じ病気で)手術を受けられた上皇さま(当時、天皇陛下)が上皇后さまとともに東北の被災地を回り人々を励まされていた姿を見て僕も自分ができることをやろうと思ったからです。

本を書いたのもそのひとつ。いろいろな方が、「心が楽になった」「ホッとした」「分かりやすい」と言ってくださった。(手術の)葛藤はありましたよ。肉体を選ぶのか? 精神を選ぶのか? って。同じような思いをしている人はたくさんいる。誰にも話せずつらい思いをしている人もいるでしょう。

だからこそ、本の中で赤裸々に書こうと考えたのです。こうなったら笑って言うしかない。むしろ、おもしろおかしく自分を笑い飛ばすことで、怖がらずにこの病気のことを知ってもらったほうがいい。「なーんだ、そうだったのか」ってね。

出版不況といわれていますが、「活字」には「映像」などとは違う良い点がある。何度も言葉をかみしめながら自分のペースで読めるのは、すごいこと。そして、ふと感じたことが自分の経験と重なると「深さ」が出てくるのです。


《前立腺がんになったのを機に、名前の字をそれまでの「亜門」から「亞門」へ変えた》


前の「亜門」はシンメトリー(左右対称)が好きで、姓(宮本)もそうだから、姓名ともそうなる。アジア(亜)の門というのも気に入ったし、「アモン」という音はイタリア語の「アモーレ(愛)」にも通じるでしょう。

その「亜門」を30年以上使ってきたのですが、がんになって、心機一転の意味で「亞門」に変えました。読み方やシンメトリーも変わりませんが、どんな人生になるか、楽しみですね。