※この記事は、月刊「正論7月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック。
もう引き返せない地点、戻れない場所を表す「ポイント・オブ・ノー・リターン」という英語表現がある。立憲民主党の枝野幸男代表が五月二十日に出版した政権構想といえる著書『枝野ビジョン 支え合う日本』(文春新書)を紹介する同日付読売新聞朝刊の記事を読み、久しぶりにこの言葉が頭に浮かんだ。
枝野氏が同書の中で、政府が進める米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設中止を掲げたという部分についてである。記事はこう指摘していた。
《しかし、枝野氏も閣僚を務めた民主党政権は「最低でも県外移設」を掲げたものの、代替案が見つからずに再び辺野古移設に回帰し、県の反発をさらに強めた経緯がある。与党からはかねて、「民主党政権が現実性のない県外移設を持ち出したために移設がさらに難しくなったのに、全く反省していない」(自民党幹部)と冷ややかな声が出ている》
枝野氏も当然、当初は「(移設先の)腹案がある」と強弁していた当時の鳩山由紀夫首相が、七転八倒しながら代替案を模索した揚げ句にとうとう見つけられず、それが退陣につながったことをはっきり記憶しているはずである。
鳩山氏は、国民から「腹案とはムー大陸のことだろうか」と呆れられ、米国の著名コラムニストには「ルーピー(くるくるパー)」との不名誉なあだ名をつけられた。
冒頭、「ポイント・オブ・ノー・リターン」を引っ張り出したのは当時、外交評論家の岡本行夫氏が月刊文芸春秋(二〇一〇年五月号)に書いた論文『ねじれた方程式「普天間返還」をすべて解く』に、この言葉を用いたこんなくだりがあったことから連想した。
《県外に移設先を見つけることは、現実には容易ではない。県外移設を主張した人々は、普天間飛行場だけを切り取ってどこにでも移せると思ったのではないか。普天間のヘリコプター部隊は沖縄に駐留する海兵隊の足だから、本隊から切り離すことはできない。移すのなら一万人の海兵隊員、キャンプハンセン、キャンプシュワブ、北部訓練場、瑞慶覧の施設群の全てを一緒にだ。そんな場所が簡単に見つからないことは、誰でもわかる話だ》
《それなのに、根拠の薄い過剰期待を与えられ、県民感情はポイント・オブ・ノー・リターンを過ぎてしまった。時間が経つとともに県内移設に対する沖縄県民の反感は強くなり、いまや「県内移設」を求めることは難しくなってしまった》
引用が長くなったが、要は枝野氏は完全に舵を切り、実現不可能なことを堂々と公約する、戻れない「あっち側」に行ってしまったのだなと感じたのだった。
「立憲共産党」という揶揄
政策面でも、国会対策面でも共産党にぴったりと歩調を合わせ、現実と向き合い、格闘する考えをなくしたのだろう。このところ、この辺野古移設反対をはじめ、東京五輪・パラリンピッ
ク開催中止などさまざまな政策で共産党と協調する場面が目立つ。それがあまりにも露骨なので、「立憲共産党」と揶揄されるほどである。
共産党との連携を深め、次期衆院選をはじめとする国政選挙、地方選挙で支援と協力を得続けたいということだろうが、それはつまり、もう政権を本気で目指す気はないということを意味する。
国民は、欧米諸国に比べ全体主義や共産主義への警戒心は薄いものの、破壊活動防止法の調査対象団体である共産党に政権を預けようとはしないだろう。コロナ禍にあることを除けば、国民はおおむね現在の社会体制を肯定している。
また、共産党の志位和夫委員長は五月十五日の東京都内の講演で、立憲民主党と次期衆院選で協力するには、自身が提唱する「野党連合政権」樹立に合意するのが条件だと強調している。
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「正論」7月号 主な内容
【大特集 日本滅ぼす平和ボケ】
非核の妄執を排す 真の防衛論議を 作家 石原慎太郎
台湾有事へ欠く政治の当事者意識 東洋学園大学客員教授・元空将 織田邦男
軍事忌避続けば安全保障は破綻 評論家 潮 匡人
誰も想定していない尖閣有事の住民避難 ジャーナリスト 仲村 覚
経済安全保障に鈍感な日本社会 経済ジャーナリスト 井上久男
外資撤退で中国のアキレス腱を衝け ジャーナリスト 濱本良一
中国が仕掛けるハイブリッド戦争 名桜大学国際学群准教授 志田淳二郎
産業競争力奪うサイバー攻撃の脅威 中曽根康弘世界平和研究所主任研究員 大澤 淳
国家機能マヒさせる身代金要求型ウイルス NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト 松原実穂子
危機から目を逸らすメディアの大罪 ブロガー 藤原かずえ
<反共鼎談>「中国こそ脅威」と堂々と言おう 反共3兄弟 評論家 石平/静岡大学教授 楊海英/産経新聞台北支局長 矢板明夫
戦狼外交とSNSで目指す「中国の夢」 ジャーナリスト 福島香織
日本人も使う中国プロパガンダ 日本ウイグル協会副会長 アフメット・レテプ
【特集 「脱炭素」に反対】
国益損じるより今こそ製造業強化を 一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事・産業遺産情報センター所長 加藤康子
中国利するだけの愚かな温暖化対策 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志
日本製小型原発を活用せよ 産経新聞論説委員 長辻象平
イメージだけで石炭火力手離すな 「君は日本を誇れるか」特別版 作家 竹田恒泰
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