あらかじめ燃料と空気を混合して燃焼器に入れる「予混合燃焼方式」を採用すれば、NOxを低減できるが、燃焼器内の火炎が投入される燃料を伝って逆戻りする「逆火」が起こりやすくなる。水素は燃焼速度が速く、燃焼器に水素を投入すると火炎の進む速度が空気の流体の速度よりも速くなるためだ。逆火によって燃料を供給するノズルまで火が達してしまうと、ノズルが破損する恐れが高まる。
このため、三菱パワーは燃焼器内の燃料や空気の流れを変えるため、燃料を供給するノズルの形状を改良。これによりノズルの中心部にできる流速の遅い部分を解消し、逆火を防止できるようになった。
天然ガスに水素を30%混焼するタイプではこの予混合燃焼器を採用した。18年に燃焼試験を終えたこのタイプは70万キロワット相当の出力に対応し、従来のコンバインドサイクル型のガス火力と比べ、発電時のCO2排出量を約10%削減できる。こうした環境性能が認められ、米国で水素ガスタービン2台の受注が決まっている。
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さらに現在、開発を進めているのが水素だけを燃料にできるタイプだ。数多くのノズルがついた「マルチクラスター型」で、それぞれのノズルの穴を小さくして安定的な燃焼を実現させた。2025年3月に燃焼試験の完了を目指している。
水素ガスタービンへの関心は高まっており、谷村氏は「数十件の話が来ている」と話す。商談件数(金額ベース)は20年1月に比べ、10月には約3割増えた。「石炭火力の転換を進める米国で需要が高く、欧州でも改造工事が多い」(同)。今後は日本や東南アジア、中東での需要増も見込んでいる。
同社は水素だけでなく、やはりCO2を排出しないアンモニアを燃料としたガスタービンの開発にも着手。火力発電の脱炭素化のトップランナーとしての地歩を固める構えだ。