歴史の交差点

武蔵野大特任教授・山内昌之 権力者の身から出たさび

2日、イスラエル国会に出席したネタニヤフ首相(中央)=エルサレム(UPI=共同)
2日、イスラエル国会に出席したネタニヤフ首相(中央)=エルサレム(UPI=共同)

2年間に総選挙が4回も行われた国、それが小党分立のイスラエルである。連立工作が失敗すれば、総選挙が繰り返される。今回ようやく成立する見込みの連立内閣は、8党合意によるが、国会(定数120)で過半数を1議席上回るにすぎない。最も議席数が多い党は中道のイェシュアティド(17議席)であり、中道の「青と白」は8議席にすぎない。右派のヤミナは7議席である。

山内昌之氏
山内昌之氏

いちばん少ないのは、イスラエル憲政史で初めて連立に参加するアラブ系政党・ラアム(4議席)である。他に、左派のメレツ、中道左派の労働党から、右派の「わが家イスラエル」や「新たな希望」など6議席か7議席の小党が連立に合意して、「変化ブロック」なる勢力が形成された。合意は反ネタニヤフ首相の一点である。

本来なら最大のイェシュアティドのラピド党首が就くべき首相は、ヤミナのベネット党首が就任する。ラピド氏は外相となる。これは政綱やイデオロギーが違うヤミナを連立内閣につなぎとめるためだ。無節操な野合といえばその通りだが、イスラエル政治ではネタニヤフ氏を通算15年間続いた権力者の地位から引きずりおろすのは、何事にも優先する政治目標だという考えも成り立つ。ラピド氏は「ゆきずりの野合」でなく「分別ある結婚」だと誇りたいところだろう。

ネタニヤフ氏は、汚職・詐欺・背任容疑の訴追と収監を恐れて、司法府を攻撃してきただけでなく、批判的なメディアの報道を差し止めてきた。また、入植地政策やガザ攻撃を私益のために使い、国民の命を危険にさらしたという批判も根強い。

「変化ブロック」は、法の支配の復活と汚職なき清廉な政治の遂行で一致したというのだ。ネタニヤフ氏は、ガザで休戦した「11日間戦争」でイランに援助されたハマスなどのイスラム過激派武装組織の武器サイト・司令部機能を破壊した。ファイザー社ブーラCEOとの談合による国民ワクチン接種率7割以上の達成(4月時点)など、国内政治で不利になる材料がなかったはずだ。連立工作失敗の原因は、組むべき相手がすべて敵になったからだ。