一聞百見

五輪で上野を肩車した球界初の女性スカウト オリックスのアマチュアスカウト 乾絵美さん

担当スカウトとしてあいさつに訪れた乾絵美さん(左)と来田涼斗外野手=令和2年11月、兵庫県明石市(西垣戸理大撮影)
担当スカウトとしてあいさつに訪れた乾絵美さん(左)と来田涼斗外野手=令和2年11月、兵庫県明石市(西垣戸理大撮影)

プロ野球界初の女性スカウトに昨年就任。一躍注目を集めた。オリックス・バファローズのアマチュアスカウトとして奮闘する乾絵美さん(37)は、ソフトボール日本代表の捕手として、2008年北京五輪では金メダルに輝いた実績の持ち主でもある。コロナ禍でスカウト活動に制限も多いが、持ち前の明るさとソフトボールで培った視点から「人としてすばらしいと言ってもらえるような選手」探しの日々を送っている。

オリックス、大丈夫?

5月下旬、乾さんの姿は関西学生野球春季リーグが開催されていた球場にあった。「球種のチェックなど、周囲の力をお借りしながらで、正直まだ不安の方が大きい」と話しながらも、その声には充実感が漂う。

現在は大阪、兵庫、香川、徳島、島根、鳥取などの地区を担当。大阪の緊急事態宣言で、視察のために地方に行くのはままならない状況だが、「学校などの指示に従って、見せていただけるところには行っています」とこつこつと視察に足を運び、電話などでも監督やコーチからの選手の情報収集に余念がない。

プロ野球界初の女性スカウトとして活動する乾絵美さん(オリックス・バファローズ提供)
プロ野球界初の女性スカウトとして活動する乾絵美さん(オリックス・バファローズ提供)

08年北京五輪で、ソフトボール日本代表の捕手として世界の頂点に立った乾さん。この年、翌年と所属チームの主将としても活躍し、26歳のときに現役を引退した。

香川県で母親の実家が民宿を営んでいたことから「調理師免許を取って民宿を継ごうかな」と考えていた頃、オリックスから、アカデミー創設に合わせてコーチとしてのオファーがあった。平成22年3月に球団職員となり、ジュニアチームのコーチとして子供たちを指導してきた。

ここで運命の出会いを果たす。平成26年、オリックスが毎年開催する小学生大会に、当時6年生だったオリックスのドラフト3位新人、来田涼斗(きた・りょうと)外野手(兵庫・明石商高)がいたのだ。来田の打撃を見た瞬間、「スイングと打席に入る雰囲気を見て、すごい6年生がいると思いました」。

オリックスジュニアの選考会に呼んでもらえるように訴え、選考会当日、当時ジュニアチームの監督だった元近鉄の羽田耕一氏が、来田の打撃を見た瞬間に「取ろう」と言った。乾さんはコーチとして当時の来田を指導。来田はその後、高校1年夏から甲子園に出場し、一昨年は春夏連続で4強入りに貢献、強打の外野手として成長した。「甲子園の試合も、ずっと近所のおばちゃんみたいな感じでみてましたね」

再び転機が訪れたのは昨年。球団からアマチュアスカウトの打診を受けたのだ。「オリックス、大丈夫?と思いました」と苦笑する。だが「世界で感じた目、経験を生かしてほしいと言っていただいた」。不安がないわけではないが、ソフトボール時代の恩師らも背中を押してくれた。

スカウト1年目は「試合を見るために、体力も集中力もこれほどまでに必要だったとは…。好きじゃないとできない仕事だと思います」と振り返る。そして、来田とは、担当スカウトとプロ志望の高校球児という関係になった。

スカウトとして初めて迎えた昨年10月26日のドラフト会議は、くしくも乾さんの37歳の誕生日。大阪市内の球団事務所でリモートで見守る中、オリックスは来田を3位指名した。これ以上ない最高のプレゼント。

「名前が挙がった瞬間、やったーと叫んでいたと思います。その後(来田の)お母さんとも話したんですが(スカウトの)担当が私でよかったと言ってくださったのはすごくうれしかったですね」